ミクロの世界で繰り広げられる微生物の攻防と協力関係
化学物質を介して行う細胞間コミュニケーション
バクテリア(細菌)とカビ(真菌)の違いを知っていますか。細菌は単細胞生物なのに対して、真菌は多細胞生物、大きさを比べると、細菌は0.5~5マイクロメートルなのに対し、真菌は2~10マイクロメートルです。
細菌は生物学的には下等生物で、感覚器官が発達していないのですが、仲間が増えたときにだけ、特別な化学物質を出し合い情報交換をします。この現象を「クオラムセンシング」といいます。化学物質を出して、仲間が増えたことを察知すると、あたかも多細胞生物のように動き出します。
増殖した状態を見計らって団体攻撃
細胞間でコミュニケーションを行うのに使う化学物質を、「シグナル分子」といいます。自然界では、細菌と微生物が攻防を繰り広げています。細菌は自分の周りにいる微生物をやっつけたり、微生物を積極的に誘惑して、自分が有利になる環境を作ったりしています。細菌は人や植物に感染して、病気を引き起こします。例えば青枯病菌(あおがれびょうきん)はナス、トマトなどの夏野菜に感染する細菌です。植物に病気を引き起こすときに、細菌の指令役が化学物質を出して仲間が増えたことを知らせます。細菌が増殖し化学物質が高濃度にたまった状態になると、みんなで一斉に植物を攻撃するのです。
真菌の器官に隠れて土の中で生き続ける
青枯病は一度畑で発生すると、何度も繰り返し発生します。このように連作障害となるのは、青枯病菌が真菌に隠れていることが原因ではないか、という考えが最近の研究で提唱されてきました。細菌が、真菌の胞子に感染し、姿を隠すことで、土の中で生き続けているのです。
青枯病の対策としては、薬品や、接ぎ木による栽培への切り替えが考えられますが、環境への影響やコストの問題があります。より有効な対策のためには、青枯病菌の生態や特徴をさらに深く知る必要があります。目に見えない世界には、まだ解明できていない生命現象がたくさんあるのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 農学部 生命機能化学科 准教授 甲斐 建次 先生
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