高層ビル群が引き起こす風環境問題をスーパーコンピュータで解析
高層ビル群と風
最近、東京の中心部で建築物が建て替えられ、街が高層ビルで高密度に埋まってきています。空高くそびえ立つ高層ビルは、風の影響を大きく受けると同時に、風の向きや強さを変えるので、周辺環境も大きく変えます。高層ビルに風が当たると、角から流れが大きく剥がれ、後方に渦を作ります。渦は強い力を発生させ、壁面・窓に作用し、台風時に建物を揺らすなど厄介なものとなります。また、建物が複数存在すると、干渉しあって、局所的に突風を発生させます。
都市で、湾岸沿いに超高層ビルがまとまって建つと、海からの涼しい風を止め、ヒートアイランド現象を助長することがあります。高層ビル群の配置が変化すると、都市の風が影響を受けることから、将来の変容を考えた設計が求められます。
風洞実験から、シミュレーションへ
超高層ビルに起因する風の影響を検証するのに、以前は風洞(トンネル型の実験装置)に建築模型を入れて観察する方法が主流でした。しかしこれだと800m程度の範囲までしか検証できませんし、気温など風以外の条件を取り入れた観察には向かないという難点があります。そのため、現在ではスーパーコンピュータによるシミュレーションが行われています。シミュレーションでは、建物の形状をデジタル値で表現し、そこに流体力学に基づいて数式化した風を組み合わせます。例えば都市域25kmの範囲を、1mの格子で立体的に区切り、その格子での風の状態をひとつずつ代数式で表すと、数百億程度の連立方程式となります。これを時間発展させて解きます。膨大な計算量ですが、これにより建物間の複雑な風を画像で表すことができ、熱・物質の輸送を視覚的に把握できるようになります。
防災や街づくりに貢献
このシミュレーションは、都市の各建物の形や大きさがデータで公開されるようになったことと、スーパーコンピュータの計算能力の向上によって可能になりました。計算結果は、防災や、超高層ビルの効率性と周辺環境とのバランスが取れた、よりよい街づくりのために役立ちます。
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先生情報 / 大学情報
東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学) 環境・社会理工学院 建築学系都市・環境学コース 教授 田村 哲郎 先生
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