多様化、分断の時代に問われる「妥協」の力
理想理論と非理想理論
高校時代には、家族や友人との関係など、さまざまな問題にぶつかることがあります。そうした問題の解決のために、どこまで理想を求めて、どこまで現実的に対処するのかといった「折り合いの付け方」は、政治の問題にも共通します。
「規範理論」という分野の学問では、「理想理論」と「非理想理論」について考えています。アメリカの哲学者ロールズに代表される理想理論は、実現可能な理想を掲げてその実現をめざすことで問題解決を図ろうとします。それに対して非理想理論は、理想の大切さは認めつつ、目の前の現実に対して何をやるべきかを考えます。
妥協の重要性
人々は「功利主義」「リベラリズム」「コミュニタリズム」などさまざまな政治思想をもち、その違いはしばしば衝突を生みだします。理想理論は、異なる思想に重なる部分に理想を見つけようとして、非理想理論はそうした理想を巡って衝突し、互いに殺し合うようなことがない方法を考えます。近年では移民やイスラム社会との衝突といった問題によって、政治的な合意を形成することがさらに難しくなっています。そこで注目されている考え方が「妥協」です。日本ではあまり良いイメージのない言葉ですが、「妥協=compromise」には「互いに譲り合う」「すり合わせる」といった意味があり、ドイツをはじめ世界の政治学者などから注目を集めています。
社会全体で社会を良くする
「児童虐待を根絶する」という考え方には誰もが賛同しますが、児童虐待は今も存在します。世の中を変えることは簡単ではありませんが、だからといって「こんなものだ」と開き直ることが良いともいえません。また、高齢化や人口減少が進む日本では、社会は今後ますます厳しくなることが予想され、「一人だけ生き残ればよい」という考え方はいずれ通用しなくなるでしょう。社会全体の力で少しでも社会を良くしなければならない時代にこそ、理想を捨てず、かつ「妥協」も含めてやれることを探して、実行する姿勢が問われるのです。
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