人はなぜ文化を守ろうとするのか 安全保障原理としてのエスニシティ

人はなぜ文化を守ろうとするのか 安全保障原理としてのエスニシティ

なぜ人は文化を守ろうとするのか?

なぜ人は自分たちの文化やアイデンティティに固執するのでしょうか。それを考える視点のひとつが「セキュリティ」です。安心や安全には、思想を自由に語ることができる、衣食住が確保できる、自身の信条や文化を阻害されずに集団を維持できる、などさまざまなレベルがあります。これらは同じような価値や背景を共有した人がまとまっていることで一定程度保障されます。いくらものがあっても精神的な部分が満たされなければ安心は成立しません。一方で精神的に満たされていても、衣食住が満たされなければ本当の意味での安全は保障されません。そこで、安心・安全を担保するための基盤として文化や民族が存在すると考え、「エスニック・セキュリティ」という概念をつくりました。

政治的境界と文化的境界

しかし、同じ文化的背景を持つ人々がまとまりすぎると国家内のマジョリティ集団や、政府から警戒され、かえって不利益を被る場合もあります。そのため、民族にとっての境界は、政治的な境界と同じとは限りません。例えばタイの少数民族であるリスの場合、タイ以外の隣国にも文化を共有する仲間たちがいます。国境とは、自分たちと国内に住むほかの民族とを同じ国民として結びつける証であると同時に、同一民族を政治的に分かつ厄介なものでもあり、セキュリティの二重性を考える上での重要な指標です。

SNSも人類学の研究ツールのひとつ

人類学は、遠方に出掛けて変わった文化を記録したり保存したりする学問だと思われがちですが、実はそうではありません。現地の人々との交流を通じて、人間の本質を考えることの方がはるかに重要なタスクです。現在ではインターネットが普及したおかげで、日本にいても現地の人々と常につながることができるようになりました。タイの山岳地帯では、固定電話よりも先に携帯電話が普及したため、SNSの利用頻度が高いのです。少数民族の人々とSNSを通じて日常的に交流を持つことは、文化的境界の揺らぎや強化を考える上での大きな手がかりにもなります。

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東京都立大学 人文社会学部 人間社会学科 社会人類学教室 教授 綾部 真雄 先生

東京都立大学 人文社会学部 人間社会学科 社会人類学教室 教授 綾部 真雄 先生

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社会人類学、文化人類学

メッセージ

社会人類学とは、世界各地の人々の価値や行動の探求を通じ、人間のあり方を見つめ直すための学問です。中心的な方法論であるフィールドワークでは、自分自身が現場の変化に関わる当事者になることも少なくなく、きっと大きな刺激をうけるでしょう。他者の文化について、「変わっている」などの感想だけで終わらせず、経験したことを「のぞき窓」にして人間存在の本質を考えてみましょう。ひとりの人間として世界とどう対峙(たいじ)するかのヒントがそこにあるはずです。おそれずに門戸をたたいてみてください。

先生への質問

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