果物をもっと甘く、大きく、おいしくするには?

果物をもっと甘く、大きく、おいしくするには?

果物を食べるとは「液胞」を食べること

果物はなぜ甘くておいしいのでしょうか。果物の細胞は、ほとんどが「液胞」と呼ばれる袋で占められています。その中に、水分や糖、酸、ビタミン、ミネラル、色素などの成分をためこんでいるのです。ですから、果物を食べることは液胞を味わっていると言ってもいいでしょう。その液胞の中にそれぞれの成分を運んでいるのが、「トランスポーター(運び屋)」というタンパク質です。トランスポーターには、糖を運ぶもの、酸を運ぶもの、水を運ぶもの、いろいろな種類があります。

遺伝子を操作して、もっと甘く、おいしく

果物の液胞で働くトランスポーターを見つけ、その遺伝子を組換えて、さらにおいしい果物や野菜になるように品種改良が行われています。例えば、糖や酸を運ぶトランスポーターの遺伝子を操作して、果物の甘さやすっぱさを調節する試みです。
水を最小限しか与えずに育てて甘い実をつけるフルーツトマトがありますが、水を運ぶトランスポーターである「アクアポリン」の遺伝子を操作して吸水量をコントロールすることで、果物の甘さを調節することが可能かもしれません。
液胞の中へ成分をためるにはエネルギーが必要で、そのエネルギーをつくる「プロトンポンプ」というトランスポーターの遺伝子を壊してしまうと、トマトの実が大きくならないこともわかっています。

体によい成分がたくさんたまる

作物の品種改良が進み、果物が「甘い・大きい・おいしい」というだけでは、消費者はもはや満足しなくなってしまいました。近年は、健康によい成分、例えば、ポリフェノール、フラボノイド、カテキンと呼ばれる化合物を液胞によりたくさんためるトランスポーターが探索されています。
人間の体によい成分を効率よく液胞内にためるには、目的の化合物を運んでいるトランスポーターの数を増やすか、一つひとつのトランスポーターの能力を上げる必要があります。目当てのトランスポーターを見つけて、その仕組みを解明し、より品質のよい作物を作ろうと研究は続いています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

名古屋大学 農学部 資源生物科学科 准教授 白武 勝裕 先生

名古屋大学 農学部 資源生物科学科 准教授 白武 勝裕 先生

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園芸学、農学、生物工学、生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

園芸科学研究分野では、花・野菜・果物といった園芸作物の遺伝子の研究をしています。具体的には、大きくて甘い果物、健康に良い野菜、きれいな花を作るための遺伝子を探しているのです。私たちの研究室は何百という種、何万という品種の園芸作物を相手にしており、研究することがまだまだたくさんあります。ゲノム科学に代表される近年の生物学の発展、あるいはテクノロジーの進展によって、多様な園芸作物の遺伝子を探索できる環境が整ってきました。あなたも興味があれば、ぜひこの研究に参加してください。

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名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。