ロケット打ち上げ失敗の意外な犯人とは
巨大なロケットが空を飛ぶ仕組み
宇宙ロケットのエンジンの仕組みとは、シンプルなものです。燃料の液体水素に酸化剤の液体酸素を混ぜて点火し、爆発的に吹き出す水蒸気の反力で空高く飛んでいくのです。ただし条件が一つあります。エンジンには、燃料と酸化剤を超高圧状態にして送り込む必要があります。そこで重要な役割を果たすのが、燃料ポンプです。ポンプの中には螺旋(らせん)状の羽根車(インデューサ)が入っており、この羽根車が高速回転することで、燃料と酸化剤を強制的にエンジンに送り込んでいるのです。
打ち上げに失敗したロケットの謎
1999年、日本は国産のH-IIロケット8号機の打ち上げに失敗しました。ロケットは打ち上げの途中で失速したため、爆破されてしまったのです。この原因を調べるために海底からロケットの残骸を引き上げ詳しく調査したところ、意外なことがわかりました。打ち上げ失敗の原因は、ロケットエンジンに燃料を送り込むポンプの羽根車の破損だったのです。燃料ポンプの羽根車は、「疲労破壊」を起こして折れていました。頑丈なはずの金属製の羽根車ですが、その破断面を見ると、繰り返し強い力がかかっていたことがわかりました。
羽根車を破壊した気泡の力
羽根車に強い力をかけて壊した犯人は、なんと気泡でした。燃料が超高速でポンプを通過する際に気化(キャビテーション)し、できた気泡が羽根車にぶつかっていたのです。
常温の水でも圧力を下げて真空状態に近づけると、沸騰して気化します。ロケットの燃料は高圧でエンジンに送り込まれますが、羽根車の回転により局所的に圧力が下がるのです。そのためにできた気泡が、繰り返しポンプの羽根車にぶつかり強い力を加えます。その結果、羽根車は振動して徐々に壊れて折れてしまい、燃料の供給が止まってロケットは失速したのです。
その後の研究で、気泡が羽根車に繰り返し強い力をかけない仕組みが開発され、それ以降の打ち上げは成功しています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 基礎工学部 システム科学科 機械科学コース 准教授 堀口 祐憲 先生
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