感覚を研ぎ澄ませ! 環境に適応する植物の力
植物にも五感がある
植物は移動しません。生きるための栄養を作り出せる光合成能があるおかげで、動く必要がなくなったのです。その代わりに、植物は生育の場におけるさまざまな環境変化から逃げられなくなりました。そのため、自分の周りの環境がどのような状況かを知るための感覚を研ぎ澄ませる必要が生じました。その環境情報を把握する力は、人間や動物に優るとも劣らず、感度もはるかに高いとされています。
全身で世界を感じ取る
動物は、例えば視覚には「眼」というように、それぞれの感覚に特化した器官を持ち、そこで集めた情報を脳に送って総合的な判断をする、中央集権的な制御を行っています。それに対して、植物は身体全体ですべてを感じ取ることができます。それは植物が、個々の細胞で環境を感じ取る多様な能力を持っているからです。植物は動物のような感覚器も脳も持ちませんが、身体のさまざまな細胞群や組織で分散制御を行うことで、環境の変化に対処しています。私たちは眼の機能が損なわれたら見ることができなくなりますが、植物は枝が一本折れても感覚機能への影響はほとんどありません。
塩に耐える植物を作る
ある種の植物が環境に対処する能力の一つとして、耐塩性があります。植物が動物と異なる点の一つにナトリウム(塩分)を必要としないことがあります。むしろ、多くの陸上植物は、塩分が多い土地では枯れてしまうことがほとんどです。しかし、中には塩に耐えられる植物もいます。例えばマングローブは、熱帯や亜熱帯の海岸近くに生育します。マングローブは塩の侵入を防いだり、液胞に蓄えたり、侵入した塩を外に放出したりする力が、一般の植物より強いことがわかりました。さらに、マングローブの持つ耐塩性遺伝子の一つが特定され、その遺伝子をタバコやユーカリに導入すると、耐塩性が向上することが確かめられています。この研究成果は、荒廃した土地や塩類の集積により放棄された農地の回復に役立つことが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
京都先端科学大学 バイオ環境学部 応用生命科学科 ※2025年4月開設 教授(学部長) 三村 徹郎 先生
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