バクテリアの力を借りて植物を強くする
バクテリアにも善玉菌、悪玉菌がある
塩害に強い農作物を作るのに、よく知られた方法としては遺伝子組換えがありますが、それ以外にも土中のバクテリアを利用する方法があります。善玉菌や悪玉菌という言葉を聞いたことがあるでしょう。実は、植物に影響を与えるバクテリアにも善玉菌・悪玉菌があります。善玉菌は植物の成長をよくし、塩害に対して強くします。一方、悪玉菌は植物を病気にしてしまいます。植物が悪玉菌によって病気になるのは、悪玉菌が自己の増殖のために植物細胞から栄養を奪い、毒素を出すためです。
バイオフィルムの中で増殖するバクテリア
このようなバクテリアは自然界で植物に対してはどういう影響を与えているのでしょうか。土中には善玉菌、悪玉菌、そして中立菌が混在していて互いに競合するため、植物の生育を促したり塩害に強くしたりしようとするならば、善玉菌だけが植物に作用するようにする必要があります。実は、菌はある場所に定着すると菌の周りに「バイオフィルム」というぬるぬるしたものを作ります。ぬるぬるしている池の石を触ったことがあるかもしれません。これがバイオフィルムです。バイオフィルムはいわば菌のすみ処のようなもので、この中で善玉菌が増殖していく環境を作ればよいのです。
省コスト・省資源農業への貢献が期待される
いったんバイオフィルムができると、バイオフィルムの構造はしっかりしているため、簡単に取り除くことのできないバリアみたいなものになります。いったんバリアができると悪玉菌の侵入も防ぐことができるのです。善玉菌の効果をさらに高めるために、遺伝子組換え技術によってバイオフィルムを作る能力を高める研究も行われています。また、善玉菌の中には植物の生育にとって必須であるリンの利用効率を上げてくれるものもあります。日本ではリン資源はほとんど輸入に頼っています。これが実用化されれば、将来の省コスト・省資源農業に貢献することが期待できるのです。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 上田 晃弘 先生
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