洗練された動きは小脳のおかげ

洗練された動きは小脳のおかげ

小脳のループ回路の役割

小脳は、「運動の自動化」という重要な役割を担っているところです。
この自動化には、「プルキンエ細胞」という細胞が鍵を握っています。小脳には、運動をした結果、目標とどのくらいずれていたかの誤差情報を受けるシステムがあります。その情報を受け取るプルキンエ細胞により、運動に関わっていた神経回路のつながり方が変化します。これにより、人間の無駄な動きがなくなり、洗練された動きが実現できるのです。
しかし、運動をすることは小脳だけではできません。脳のいろいろな部分が、さまざまな役割を持つことで運動ができるのです。例えば、大脳の一次運動野や運動前野と呼ばれる部位と小脳の間には「ループ回路」があります。何回か情報のやりとりをすると、新しい洗練された情報がループ回路として定着します。
同様に大脳基底核と補足運動野、一次運動野、視覚野、頭頂連合野、海馬、前頭前野など、それぞれがループ回路を持っています。ただ、ループ回路があるということはわかるのですが、現時点では、ある時刻における神経活動を断片的に調べることができるだけで、その神経活動により、どのように情報をつくりだしているのか、またループ回路自体がどのような役割を持っているかについてはまだ多くがわかっていません。

運動によって脳が栄養をもらう

運動については、脳を含めた身体全体の問題としてとらえる必要があります。運動器(筋肉や骨)だけの問題ではありません。
運動する時には筋肉からも栄養をもらっています。筋活動することによってIGF-1(インスリン様成長因子1型)が骨格筋や肝臓から血液を介して脳に運ばれ、脳の神経回路の形成を促進します。その結果、脳の中のBDNF(脳由来神経栄養因子)が出て、新しい神経細胞の産生を促しています。運動すること自体は脳が指令を出して行うのですが、運動することで脳は筋肉からも栄養をもらうことができるのです。機能的に健康な状態になるためには、運動が重要な役割を果たしているのです。

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東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻生命環境科学系 教授 柳原 大 先生

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻生命環境科学系 教授 柳原 大 先生

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メッセージ

スポーツ科学や、身体運動が介在する健康科学という分野は、現在では学際的な発展をしています。例えば分子遺伝学、分子生物学、生体工学、ロボット工学などとも密接なつながりができてきました。研究手法も実験だけでなく、コンピュータ上でのモデリング、ロボット実機での検証に至るまで幅広く行われています。いろいろな分野での社会貢献も期待されています。また健康科学は、オリンピック選手のためではなく一般の人も対象にした、運動を科学的に探究していく分野です。ぜひ共に学び、すべての人の健康づくりに貢献していきましょう。

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