「できる・できない」ではなく、「どうしたらできるか」を考える
行動で認知機能を知る
認知症を発見・診断するために医療機関などで検査を行いますが、その検査はものの名称を答え、簡単な計算をする内容が中心です。では、言葉のやりとりができなくなった人は、どのように評価すればいいでしょうか。その一つが、言葉を話せない乳幼児の発達程度を知るための、行動や動作から評価する発達検査の活用です。本人が言語を理解できなくても、行動を観察すれば、認知機能の低下を知る手がかりになるのです。そのような行動観察で、重度の認知症だと思われる人にもさまざまな能力が残っていることがわかってきました。
認知症でも残っている能力とは?
かつて塾の先生をしていた認知症患者のAさんは、言葉のやりとりはできませんが、今でも2桁の計算ができます。また、少し知的障害のある認知症患者のBさんは、それまで蛇口をひねる水道を使っていましたが、何度も訓練して、新しいタッチ式の水道で手を洗えるようになりました。Bさんは、子どもの頃から手洗いを厳しくしつけられてきたため、その経験が訓練前後の行動に影響していると考えられます。このように重度の認知症の人でも、過去に経験してきたことは維持しやすく、興味のあることは学習して新たに覚えることが可能なのです。認知症患者へは、背景や人生を考えて支援することが求められます。
「できる」ための方法を考える仕事
作業療法士は、認知症や障害のある人が、本人の望むように生きていくためのお手伝いをする職種です。例えば、身体に障害のある人が、ファミリーレストランで食事をしてみたいと思っているとします。その場合、実現するために必要なことを考え出し、店舗のスロープを歩く練習、メニューを見て注文する練習、お金を払う練習などをすれば、その人はファミリーレストランに行けます。つまり何か目標があったとき、「できる」「できない」の2択で判断するのではなく、「できるようにするためには何をしたらいいか」を考え、環境や方法を工夫することが作業療法士の役割なのです。
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