心理学の視点から見る『千と千尋の神隠し』
千尋はなぜ名前を奪われた?
スタジオジブリの代表作の一つである映画『千と千尋の神隠し』は、日本はもちろん、海外でも好評を博した作品ですが、なぜ多くの人の心を揺さぶったのでしょうか。さまざまな心理学の視点から考えてみましょう。
この作品は、千尋という少女が大人の女性に変わっていく過程で、その心の中で何が起きているのかが描かれています。例えば、千尋はあちらの世界で、なぜ名前を奪われたのでしょう。名前というのは、大人になっていく上で、自分の生き方や背負うものと結びついた時に大きな意味を持ちます。成長した千尋は、最終的に名前を取り戻しますが、ここに大人としての自覚と責任を獲得するプロセスを見ることができます。
「カオナシ」は人の欲望を映し出す鏡
登場人物の一人である「カオナシ」は、心理学的に「ペルソナ」の役割と言えます。ペルソナとは仮面のことで、人は対人関係の中で状況に応じて仮面を付け替える、つまり自分を変えることがあります。そこには、基本的に人間の欲求や欲望がからんできます。相手の欲求の鏡のような存在であるカオナシは、醜い欲望に相対すると恐ろしく変容しますが、金銭欲のない千尋に相対すると、対応できなくなってしまいます。人間には悪と善の部分があり、善が表に出ると悪は引っ込み、悪が前面に出ると善は引っ込みます。カオナシが、千尋やそのほかの人々と対峙する場面は、人間の善悪の見え方を象徴するものでもあります。
神の世界と現実の世界を結ぶトンネルの意味は?
さまざまな経験を経て、少女から思春期の女性へと大きく成長した千尋は、映画の冒頭と最後のシーンで、その顔が大きく変わっています。トンネルを通ってこちらの世界へと戻ってきますが、このトンネルは産道であり、トンネルを出た千尋は生まれ変わったのだ、と考えることもできます。もちろん、宮崎駿監督がどこまで意図していたのかはわかりませんが、心理学を学ぶと、このような見方をすることもできるのです。
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東北福祉大学 総合福祉学部 福祉心理学科 教授 渡部 純夫 先生
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