小さなステップから「できる」を導く作業療法
運動が苦手
「発達性協調運動障害」は、発達障害の1つで、知的な遅れや運動まひはないのに、身体の動きや運動が非常に苦手で不器用である状態を指します。特に小学校以降の学齢期になると、体育の授業で縄跳びなどができない、書道でうまく字が書けないなど、集団での一緒の行動が難しくなることで表面化することがほとんどです。しかし、この障害はまだ広く知られていないことから、ただ練習を繰り返せば克服できると思われがちです。そのため、学校現場などでも、単に反復練習の指導が行われていることもあります。
スモールステップ
発達性協調運動障害のある子どもに対して、作業療法では「スモールステップ」の手法を活用します。この手法は、課題そのものにいきなり取り組むのではなく、運動や動作を小さなステップに分割して、段階的に練習を進めていく方法です。例えば縄跳びの場合、基本の姿勢が適切でないために跳ぶエンジンがかからない子どももいます。こうした場合には、まずは体をほぐすためのメンテナンス体操から始めます。また、縄跳びには主に跳ぶ動作と縄を回す動作の2つの要素があるため、それぞれに対応するスモールステップとして、跳ぶだけの動作や手首でタオルを回す練習などを行います。これらのスモールステップを段階的に習得していくことで、最終的に実際の縄跳びの練習に取り組む準備が整うのです。
心の健康も
このような作業療法は、運動や動作の獲得だけをめざしているのではありません。発達性協調運動障害を抱える子どもたちは、その結果として心理的な問題を抱える可能性があります。学齢期において、自身の運動の苦手さや不器用さに気づくことで落ち込むだけでなく、同級生からのからかいやいじめなどが懸念されます。こうした心の影響を軽減するためにも、スモールステップ法を活用した作業療法が効果的です。小さな成功体験を積み重ねることで、心理的な側面にも前向きな影響をもたらし、子どもたちの心を肯定的な方向に導く役割を果たします。
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先生情報 / 大学情報
神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授 笹田 哲 先生
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発達障害作業療法学先生が目指すSDGs
先生への質問
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