飛脚はなぜ1日200kmも走れたのか――答えは「古武術」にあり
古武術の基本姿勢
現代人に多いのが、猫背で骨盤が後ろに倒れたいわゆるS字姿勢ですが、この姿勢は脚腰に無理な力が入ります。これに対し、お尻を斜め上にあげるような気持ちで骨盤を前に倒し、肩甲骨を後ろに引き、背骨を下から積み上げるような意識で立つのが古武術の基本姿勢です。背筋と腹筋のバランスが取れ、無駄な力はどこにも入っていません。この応用で、股関節を後ろに引く(=骨盤を前に倒す)ように脚の付け根を曲げて中腰になると、横から強い力で押されても余裕を持って耐えることができます。人は正しい姿勢を取ることで本来の力を引き出せる、これが古武術の考えです。
現代人と違う昔の人の体の使い方
今と違って昔は、生活とはすべて「体を動かす」ことが基本でした。古武術とは明治維新以前から日本にあった武術の総称ですが、昔の日本人の動作の基本を表す身体技法でもあります。
江戸時代の飛脚は江戸~大坂間の約600kmを3日で走りました。現代の陸上競技の選手にもまず不可能なことを、彼らはなぜできたのでしょう。最大の理由は「地面を蹴らずに走った」ことです。体を前に倒していくと自然に脚も前に出ますが、彼らはこの要領で、体の重心を前に崩し、倒れかけたところに脚がついていくような走り方をしていました。筋力で脚を上げたり蹴ったりする必要がない、効率の一番良い走り方です。
また、2人の女性が米俵5俵(300kg)を担いでいる写真も残っています。今のスポーツ界でも300kgスクワットできる人はそうはいません。このような状態で立てるということは、相応の姿勢を取っていたということです。
バイオメカニクスと古武術の融合
バイオメカニクスという、人間の動きを力学的に分析する学問が注目されています。古武術とは一見、両極端な分野ですが、人間の動きの本質を追究するという理念は同じです。バイオメカニクスと古武術の両方をスポーツに取り入れてより高いパフォーマンスをめざす、そんな研究が始まっています。
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先生情報 / 大学情報
びわこ成蹊スポーツ大学 スポーツ学部 スポーツ学科 スポーツパフォーマンス分析コース 教授 高橋 佳三 先生
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