スポーツサイエンスとICTの組み合わせで「怪物」をつくる!?
未来を知覚するアスリート
優れたアスリートが「ボールが止まって見えた」「パスコースが光って見えた」と発言することがあります。現実的ではないように聞こえますが、そうとは言い切れません。例えば野球では、ピッチャーが投げたボールをバッターが目でとらえますが、その信号が脳の視覚野に送られるまでの間にボールがキャッチャーミットに収まっていることがあります。にもかかわらず、優れたバッターがそのボールを打つことができるのは、物理的なボールの軌道ではなく、その少し先を心(脳)の中で見ているからです。つまり物理世界ではなく「脳が推測した将来の世界を知覚している」からこそ、卓越したパフォーマンスが発揮されるのです。
仮想空間で知覚能力を鍛える
こうした「将来の世界」を脳や心でとらえる能力を、バーチャルリアリティー(VR)空間で評価・トレーニングする仕組みの開発が進んでいます。例えば、ゲームやアトラクションに使われるヘッドマウントディスプレイ(HMD)やコントローラーを装着し、スポーツ科学のトレーニング理論に基づいてプログラミングされたトレーニングを行う装置が開発されました。ボールの軌道予測や視線の計測、個々のレベルに最適な負荷をかけることもより自在に行うことができ、現実空間でできるトレーニングを超えたパフォーマンスが可能になるという研究結果も報告されています。
スポーツ心理学の役割
こうした研究のベースになっているのが「スポーツ心理学」です。スポーツ心理学といえば、「競技中のプレッシャー克服に役立つ学問」といったイメージが強いかもしれませんが、それだけではありません。脳や心の動きに関する専門知識や理論を、VRを含む情報通信技術(ICT)と組み合わせることで、運動パフォーマンスそのものを高めることも可能なのです。
実際にプロ野球の世界では、試験的にVRトレーニングを取り入れる球団も出てきています。今後の研究がさらに発展することで、「怪物」と呼ばれるアスリートが数多く現れることが期待されます。
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先生情報 / 大学情報
鹿屋体育大学 体育学部 スポーツ人文・応用社会科学系 准教授 中本 浩揮 先生
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