抗がん剤治療のつらさを軽減するには? 嘔吐を抑える薬の開発
抗がん剤の副作用を抑える
がんの治療に用いられる抗がん剤は副作用が強いため、その副作用を抑える薬の研究が行われています。例えば吐き気・嘔吐(おうと)を抑える薬です。副作用としての吐き気・嘔吐は、抗がん剤が消化管の細胞をがん細胞と間違えて攻撃してしまうことで起こると考えられています。がん細胞は、ほかの細胞に比べて分裂スピードが速いという特性があります。これを利用して、抗がん剤は分裂のスピードが速い細胞をがん細胞だと認識して攻撃しています。消化管の粘膜も細胞分裂のスピードが比較的速いために、がん細胞に間違えられやすいのです。
急性嘔吐とセロトニンの関係
抗がん剤による嘔吐には、急性と遅発性の2種類があります。医療現場ではさまざまな薬を用いて嘔吐を抑えようとしていますが、2種類の嘔吐を完全に抑えることはまだできていません。それでも急性嘔吐に対しては、対処できる薬が見つかっています。急性嘔吐は、体内に存在する「セロトニン」という物質が、抗がん剤の投与によって、同じく体内に存在するいくつかの受容体のうち「セロトニン5-HT₃受容体」と結び付くことで起こります。この仕組みに着目し、セロトニン5-HT₃受容体に先回りして結合してセロトニンによる刺激を遮断する薬が用いられています。
謎だらけの遅発性嘔吐
一方、遅発性嘔吐には、ステロイドなど複数の薬を用いて対処が試みられています。ただし遅発性嘔吐には不明な点が多く、なぜステロイドが遅発性嘔吐に効くのか科学的な根拠はまだわかっていません。ステロイドはやけどの治療など幅広い用途がある薬です。多くの作用があるので、どの作用や成分が遅発性嘔吐に効果があるのか突き止める研究が行われています。ほかにも遅発性嘔吐のメカニズムを明らかにして薬の開発に応用するための研究も進行中です。例えば脳の嘔吐中枢に影響を与える物質「サブスタンスP」と遅発性嘔吐の関係など、さまざまな視点から研究が続けられています。
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北海道医療大学 薬学部 薬学科 准教授 町田 拓自 先生
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