人型ロボットの2足歩行制御のために人間の歩行を学ぶ
簡単なようで難しい2足歩行
私たちは日頃まったく意識することなく2足歩行を行っていますが、ロボットにとって安定的に歩くことは困難なタスクです。人型ロボットの2足歩行の研究が始まって以来半世紀がたちますが、現在でも人の能力を上回るロボットは開発されていません。2足歩行ロボットを開発するためには、人の歩行の仕組みを理解することも重要です。
人の歩行の特徴は3つあります。一つは脚の構造そのものが持つ安定性を用いて歩く点、二つ目は脊髄などの神経系を利用して歩行する点、三つ目は脳を用いて高次の運動制御を行う点です。人は状況に応じてこれらを巧みに使い分け、頑健でエネルギー効率のよい歩行を行っています。
骨格のみで歩く受動歩行
緩やかな斜面をリラックスして下る際、ほとんど脚力を使わないにもかかわらず転ぶことなく安定して歩くことができます。この歩き方は受動歩行と呼ばれています。一般に、歩行に限らずさまざまな現象を安定化させるには「状況に応じて対象を制御する」という考え方が必要になります。例えば自動車を一定速度で走らせたいなら、現在の速度に応じてアクセルやブレーキを加減することが必要です。しかしこの受動歩行では制御する仕組みを持っていないにもかかわらず、坂道の角度に応じた一定の速度に歩行が収束していくという現象がみられます。これは脚の構造そのものに安定化の仕組みが存在していることに起因しています。
神経系のリズムが歩行動作を作る
傾斜のない路面を歩く場合は、脚を自律的に前に出すための筋肉やその動きを制御するための神経回路が必要になります。歩行時の筋肉の動きはCPG(中枢パターン発生器)と呼ばれるニューロン群によって制御されます。CPGの振動現象によって一定リズムの電気信号が出力され、これに基づいて脚の筋肉が収縮することにより歩行動作が生じます。受動歩行と同じくこの歩行も単に動きを生成するだけでなく、路面に変化があっても転倒しないよう歩行を安定化させる機能をもっていることが知られています。
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