海をフィールドとする「水中考古学」の魅力と意義とは

海をフィールドとする「水中考古学」の魅力と意義とは

海底だからこそ保存されてきた遺物

考古学と聞けば、古代の住居跡や城跡などの遺跡を発掘して、出土品から当時の生活や歴史を解明していく学問を想像すると思います。しかし、過去の歴史や文化、人々の交流などの遺物が残されているのは、陸上だけではありません。実は、貿易や交流を通して人間の生活や文化をつないできた海の底にも、その証拠となるものが数多く眠っているのです。それら海底の遺物を対象とした発掘や調査、研究を「水中考古学」と呼びます。その歴史はまだ浅く、近年、ユネスコが水中文化遺産保護条例を採択し発効したことから、注目が高まってきました。理由のひとつは、海の遺跡は人の手が入らないため保存されやすく、陸上にはない多くの情報を秘めていることです。

歴史の大事件を生々しく伝える海底遺跡

例えば、13世紀に二度にわたって九州に襲来した「元寇」があります。二度目の1281年6月、朝鮮半島と中国大陸から渡ってきた蒙古軍は、長崎県鷹島の南岸沖に集結しましたが、暴風雨に襲われ、一夜にして数千という船と数万の兵士が水中に飲み込まれました。海底に爪が突き刺さったままの木碇をはじめ、剣、矢束、石弾、炸裂弾などの武器、さらに兜、鎧などが散乱した様子が掘り出され、当時の大事件を生々しく伝えています。

海からの視点で歴史や文化を見直す

そのほか九州には、交易や歴史の痕跡である海底遺跡が数多く存在します。例えば、2001年に初めて水中調査が行われた九州本島の西に位置する五島列島の小値賀島周辺からは、タイの陶器の壺や臼などの破片が大量に見つかり、中世の海上交易の様子を私たちに伝えてくれます。
また、水深5mの海底にローマ時代の町が広がっている、地中海のナポリ湾に面したバイアの海底遺跡のように、地盤沈下や大地震で港や町が沈んだ遺跡も世界各地にあります。「水中考古学」の意義とは、人類の海における営みを知ると同時に、海からの視点で歴史を見直してみることにあるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

長崎大学 多文化社会学部 多文化社会学科 教授 野上 建紀 先生

長崎大学 多文化社会学部 多文化社会学科 教授 野上 建紀 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

考古学、歴史学

メッセージ

考古学は、実際に自分の目で見て、感じて、表現する学問です。野外に出て研究することをフィールドワークと言いますが、若い時ほどこれをしっかり身につけることができます。
また、若い時に確かな情報をつかむ方法を身につけておけば、大人になってからも間違った判断をすることも少なくなります。現代はインターネットなどによって情報を簡単に取得できますが、その中には嘘偽があったり、一面的であったり、誇張されていたりする場合もあります。情報が氾濫する現代を生き抜くためにも、考古学は役立つでしょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

長崎大学に関心を持ったあなたは

長崎大学は、出島を介した『勉学の地』としての誇りと『進取の精神』を受け継ぐとともに、宗教や科学における非人道的な負の遺産にも学び、人々が『平和』に共存する世界を実現するという積極的な意志の下に教育・研究を行います。そして、蓄積された『知』を時代や価値観を越えて継承し、人類を愛する豊かな心を育て、未来を拓く新しい科学を創造することによって、地域と国際社会の平和的発展に貢献します。