文化に優劣はないはずなのに、世界遺産に行きたくなる不思議

文化に優劣はないはずなのに、世界遺産に行きたくなる不思議

文化って何?

「文化」という言葉はいろいろな意味で使われています。「芸術」のようなものを指すこともありますし、生活習慣を指すこともあります。文化人類学では文化を「人間が後天的・歴史的に学習してきた生活様式の複合体」ととらえています。この場合の「生活様式」には、思考・嗜好・身体技法など、あらゆるものが含まれます。何を食べるか、何を着るかなど、自分の「好み」だと思っているものも、実は文化に規定されているのです。つまり、文化は人びとの暮らしそのものだといえます。

文化の優劣と世界遺産

世界にはさまざまな文化がありますが、それらに優劣はあると思いますか? かつてはヨーロッパの文化が最も優れていると考えられていた時代がありました。しかし20世紀初頭の文化人類学において、文化の違いは進化の度合いによるものではなく、それぞれの文化にはそれぞれの価値があり、高低優劣の差はないという考え方が出てきました。そして、それは現在世界的に広く支持されています。
一方、世界遺産と聞くと「優れた文化である」という気がしませんか? 実際、世界遺産条約においては「顕著な普遍的価値」を持っていることが登録の基準になっています。「文化の多様性」を尊重しつつ、「顕著な普遍的価値」も求める-そんな相反する理念のもとに世界遺産は選ばれているのです。

文化の資源化

文化は「資源」としてもみなされています。例えば観光地として人気の世界遺産「白川郷合掌造り集落」は、近代化によって捨て去られようとしていた茅葺き民家が、新たな価値を見いだされて生き残ったものです。生活の中にあった文化が、価値の転換によって文化遺産になるとともに観光資源になったのです。
現在、日本は国をあげて文化を観光資源として使う方向にあります。今後さまざまな文化的事象が観光資源になっていくことでしょう。それが人びとの暮らし(文化)にどのような影響を与えるのか、そのプロセスをつぶさに検証する研究が今後進んでいくはずです。民俗学や文化人類学はそれに最適な研究分野だといえます。

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先生情報 / 大学情報

長崎大学 多文化社会学部 多文化社会学科 教授 才津 祐美子 先生

長崎大学 多文化社会学部 多文化社会学科 教授 才津 祐美子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

民俗学、文化人類学、文化資源学、観光学

先生が目指すSDGs

メッセージ

自分の中の小さな引っ掛かりや疑問を温めていくと、それが大学での学びや将来の職業にまでつながることがあります。私の場合、それが民俗学でした。民俗学はまさに暮らし中の「?」から出発し、社会や文化を考察するとともに、自己内省を深めていく学問だといえます。また、当たり前を疑うことも大事です。民俗学と同時に文化人類学を学ぶと、自分の思考や嗜好に、いかに自文化のバイアスがかかっているかがわかります。
日々の態度が学問につながり、学問がまた日々の生き方につながっていく。大学の学びとはそのようなものだと思います。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

長崎大学に関心を持ったあなたは

長崎大学は、出島を介した『勉学の地』としての誇りと『進取の精神』を受け継ぐとともに、宗教や科学における非人道的な負の遺産にも学び、人々が『平和』に共存する世界を実現するという積極的な意志の下に教育・研究を行います。そして、蓄積された『知』を時代や価値観を越えて継承し、人類を愛する豊かな心を育て、未来を拓く新しい科学を創造することによって、地域と国際社会の平和的発展に貢献します。