イチゴの免疫力を高める「ホットストロベリープロジェクト」
農薬を使い続けると病原菌に耐性ができる
農作物はさまざまな病気にかかります。例えばイチゴでは、葉や実が白い粉がかかったようになるうどんこ病、葉や実が黒くなって枯れる炭そ病、花や実が腐ってカビが生える灰色かび病などが代表的な病気です。これらの病気にかかると生産量も商品価値も下がってしまいます。それを防ぐために農薬を使用しますが、農薬を使い続けると、病原菌に耐性ができて農薬が効かなくなります。農薬が効くように農薬の量を増やすとコストも労力もかかり、周辺の生態系にも悪影響を及ぼします。
ストレス環境に置くことで免疫力を高める
そこで、栽培中の農作物の免疫力を高め病気にかかりにくくすることで、農薬の量を減らす研究が始まっています。
植物は生育に適さない環境(ストレス環境)に遭遇すると、免疫が活性化して、自らさらに強い植物になろうとします。ストレス環境として、高温、低温、振動、傷などがあります。そこで、毎日農作物をほうきでなでたり、強い風を当て続けたり、お湯をかけたりする方法で、ストレスを与える研究が行われています。しかし、ストレスが免疫活性化につながるメカニズムの全体像はまだ解明されていません。
お湯をかけ、イチゴの葉を軽い火傷状態にする
イチゴ栽培では高温ストレスが免疫活性化に大きな成果をあげています。この方法は専門用語で「熱ショックによる病害抵抗性誘導技術」と言います。これはイチゴに60度前後のお湯を直接かけて葉の温度を20秒間50度にするものです。葉は軽い火傷を負った状態になり、その熱ショックが免疫活性を高めているのです。熱ショックを与えるには、ビニールハウスを締め切って室温を高める方法もありますが、天候や季節に左右されやすく、シャワーの方が手軽で安定的に実施できます。このシャワーをイチゴに週1回かけることで、農薬の量を3分の1に減らすことができました。このように実証栽培で成功したので、今後は「湯温散布装置」の低コスト化や、農家への普及方法が課題となります。
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先生情報 / 大学情報
茨城大学 農学部 地域総合農学科 教授 佐藤 達雄 先生
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