「考えること」が、新しい技術を受け入れる社会を作る
技術に対しての観点
進歩が著しい現代では、科学や医療などのさまざまな新しい技術があっという間に普及し、私たちの生活を豊かにしています。これらの技術を受け入れる際、使用方法や倫理観などを研究者だけが考えて進めるのではなく、受け入れる私たち一人ひとりが正しく理解し、その技術に対して自分なりの観点を持つことが必要です。
ブタの体を使って人間の臓器を作ってもいいか?
臓器移植について考えてみましょう。世の中には臓器移植を望む患者さんがたくさんいるのに対して、実際に移植できる臓器は不足しているのが現状です。しかし、臓器を人工的に作る技術はまだ確立されていません。人間の臓器は一種類の細胞ではなく、筋肉や血管などのさまざまな細胞が組み合わさってできた複雑な立体の構造物だからです。iPS細胞の研究によると、人間とほぼ同じ大きさの臓器を持つブタの体を使えば、人間のすい臓をつくることが可能となってきました。臓器を欠損するように遺伝子操作されたブタの体内に人のiPS細胞を入れると、ブタの体の中に人への移植が可能なすい臓ができるのです。これは倫理的に行ってもよいことでしょうか?
答えのない問いを考える
アンケート調査では「人の命を救えるのなら構わない」「ブタも命があるのだからかわいそうだ」「ブタは食べているのだから気にならない」などのさまざまな意見が出ました。一般論として考えたときと、もしも自分や自分の家族が臓器移植が必要だという立場で考えたときとでは、意見が変わることもあります。これが正しいという一つの答えはありません。
答えのない問いに悩むことは、考える力を養います。さらに社会全体で一つの問題を考えることは、新しい技術を受け入れる土壌を作るのです。多様性(ダイバーシティ)に富む社会では、自分の考えと他人の考えは決して同じではありません。自分とは違うさまざまな意見に耳を傾け、どうしてそう考えるのかを考察し、最善はどこにあるのかを探る意識そのものが大切なのです。
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茨城大学 教育学部 養護教諭養成課程 教授 石原 研治 先生
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