「ながらスマホ」の危険性を、認知のプロセスから解明する

「ながらスマホ」の危険性を、認知のプロセスから解明する

ながら歩きはなぜ危険か?

駅のホームで、あるいは街中で、たくさんの「ながらスマホ」をする人がいます。また、ヘッドフォンをしたまま歩いている人もよく見かけます。どちらもかなり危険な行動です。危険な理由を「認知心理学」から、考えてみましょう。

人間の注意力はコップの中の水?

「認知」とは、自分の周りにある対象を認識し、知識として記憶したり、行動に結びつけていく心の働きのことです。認識において重要な能力の一つが「注意」です。「注意」は、情報選択の能力で、選択には意識が関わっています。人間の注意力は、コップの中の水のように量(認知資源)が限られており、何かに使うとほかに使える量が減ると考えられています。したがって、手元のスマホに夢中になると、ほかの対象に向ける量が少なくなるため、危険なのです。また、関心の対象により、注がれる量も変わり、細かい情報ほど量は多くなります。スマホはガラケーに比べ情報量が多いため、スマホを見ているとほかの対象により意識が向かなくなるのです。
一方、ヘッドフォンで音楽を聞きながら歩くのは視覚的注意は確保されているので安全だと思うでしょう。しかし、人間の目は、前方向しか見えないため、背後の気配は、耳で感じています。耳をヘッドフォンで覆うと、後ろの気配を察知できなくなり、危険になるのです。聴覚的注意も、人間の重要な注意の働きなのです。
私たちの五感は、別々に使われているわけではありません。ヘッドフォンの例にもあるように、ものを見るとき、視覚だけでなく、ほかの感覚からの情報も上手に使って対象をとらえているのです。

認知の解明は、人間の理解につながる

大量の情報があふれている現代社会で、今、何にどれくらい認知資源を振り向けるかを適切に判断し・活用できる注意の能力は非常に重要です。これには、自分の思考や行動などを客観的に認識・制御する「メタ認知」という能力も関わってきます。まだまだ未知な部分の多い人間の認知の解明は、私たちの生活や社会をより一層安全に、豊かにしてくれるでしょう。

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明治学院大学 心理学部 心理学科 教授 金城 光 先生

明治学院大学 心理学部 心理学科 教授 金城 光 先生

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メッセージ

日本は大学進学に合わせて文系・理系とコースを分ける高校が多いと思います。しかし、文系だから数学や理科を勉強しない、理系だから国語の勉強は適当という発想は非常にもったいないと思います。認知心理学でも、文献を読むためには英語力を含めた語学力、数値を扱うので数学的な処理能力も必要です。例えば色の認識過程の理解には神経細胞の仕組みなど生物や化学の知識が関係しています。知っていることが多いほど、やりたいこと、できることが広がります。ぜひ自分の能力に天井を作らず、いろいろなことを貪欲に学んでください。

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150年以上もの歴史を持つ明治学院大学。本学の起源は、1863年にアメリカ人宣教医師ヘボン博士が開設した英学塾から始まります。無償で診察を行いながら、英和・和英辞典を編纂し、ヘボン式ローマ字でも有名なヘボン博士。その信念「Do for Others」を教育理念とし、本学ではグローバル社会に対応できる学術知識と教養を培い、他者とともに道を切り開ける人材を育成しています。