高齢者の横断中の交通事故防止に開発された「歩行環境シミュレータ」
車道横断をバーチャルに体験できる
コンピュータによるバーチャルリアリティの研究はさまざまな分野で行われています。この技術を応用して、高齢者の横断中の交通事故を防ぐために開発されたのが「歩行環境シミュレータ」という装置です。この装置には、前面と両側面に車が行き交うコンピュータグラフィックスが投映されるスクリーンが設置されています。高齢者は真ん中に置かれたルームランナー上を歩くことで、車道の横断をバーチャルに体験できます。そして横断するときの体の位置、姿勢などをモーションキャプチャという装置で計測し数値化し解析します。
交通事故に遭いやすい人に共通の特徴とは
高齢者にこの装置で道路の横断を体験してもらうと、バーチャルの世界ながら車にぶつかってしまう人も少なくありません。そしてデータを分析すると事故に遭いやすい人に共通する特徴があることがわかりました。「横断を始めようとするとき、右を向いている時間が左を向いている時間よりも長い」「いったん横断を始めると安全確認をしないで歩き続け、特に左車線を注意しない」のです。
このことから、高齢者には「左側にも注意を向ける」「車の速度を認識できるよう、2秒以上見る」ことに気をつけながら横断する訓練をしてもらいます。この訓練で事故に遭いにくくなります。現在では、歩行環境シミュレータは全国各地で交通安全教育に使用されています。
高齢者に配慮した交通インフラの整備を
この装置のルームランナーの代わりに自転車を置き、高齢者が自転車で横断する動作の解析も進んでおり、今後、研究が進めば高齢者の自転車事故の予防に役立つと考えています。
日本のみならず高齢社会の問題は世界共通です。しかし、高齢化に対応した道路のインフラの整備は進んでいません。バーチャルな世界の研究で高齢者の安全に配慮したインフラ整備や交通安全サービスを探し出し、実際に応用することで高齢者にやさしいまちづくりが実現できると考えられるのです。
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秋田大学 情報データ科学部 情報データ科学科 教授 水戸部 一孝 先生
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