「左半側空間無視」の治療に使われる理学療法とは
左半分が見えない「左半側空間無視」
脳梗塞などが原因で右脳を損傷した場合、左側の空間が見えなくなる「左半側空間無視」という症状が出ることがあります。これは、網膜には全体が映っているのに、脳の頭頂葉で情報を統合できず、左半分の空間だけを認識できないという症状で、例えば、食事の時、左半分に置かれたものに手を付けない、円形の時計を描く時、右半分に偏って描くといった行動が見られます。本人は完全に見えているように感じているため、左側が見えていないことがわからず、車椅子の左側のブレーキをかけ忘れたり、左側にあるものにぶつかったりと、生活に著しい支障をきたします。
磁気や電流で脳を刺激して治療
「左半側空間無視」の治療としては、脳に強い磁気刺激を与える「経頭蓋(けいとうがい)磁気刺激法」という理学療法があります。右脳が損傷すると、健常な左脳の働きが過剰になるので、そこに磁気を与えて働きを抑制することで、右脳を活性化させるのです。また、「経頭蓋直流電流刺激」という後頭部に電流を流し、脳の認知能力を高めるという方法もあります。さらに、「自己教授法」という行動療法もあります。これは、車椅子を止めたら、左側のブレーキを止め忘れないように、「止まったらブレーキ左」という具合に、自分のすべき行動を口に出して確認し、行動を習慣化することで、脳細胞に行動を記憶させる方法です。
時期や回復状態で異なる治療法
こうした理学療法は、時期や回復状態によって使い分けます。脳梗塞になって間もない時期で症状が落ち着かない急性期には、障がいが出ていることを自覚してもらうための療法を行い、症状が安定する慢性期になると、磁気刺激などの治療を行います。ただし、刺激療法は、機材の価格が高く、また神経内科の医師の関与が必要になるため、行える施設が限られます。また、症状が出てから回復するまでに半年程度かかるので、退院してからも在宅でも治療できる仕組みが求められています。
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