私たちは遠くの世界をどう認識しているのか ~距離感の心理学~
月までの距離を感じ取れますか?
人間は、遠くに見えるものとの距離を、どのように認識しているのでしょうか? 例えば、月までの距離を本やインターネットを使わずに、自分の感覚だけで正しく答えられる人はいないはずです。夜空に浮かぶ月を、「遠くにある」と感じられても、それは物理的な距離を理解しているわけではありません。距離感を感じる仕組みは、どのようなものなのでしょうか。
距離感の手がかりになる3つの情報
人間は、外界の情報の多くを視覚から得ています。しかし、網膜から入力される情報は2次元で、距離に関する直接的なものは含まれていません。2次元の情報から3次元の画像を作るために、脳が距離に関する手がかりをうまく取り出しているのです。
距離感の手がかりになる情報には、「絵画的奥行き手がかり」「両眼網膜像差」「運動視差」があります。絵画的奥行き手がかりとは、絵を描く技法に使われる、物の大小や陰影などのことです。両眼網膜像差は、右目と左目の異なる位置から物を見ることで生じる「像のズレ」のことで3D映像を作るときにも応用されています。運動視差とは、手前の物は大きく動き、遠くの物はあまり動かないように見えるという、動き方の違いを指します。
夜空の月は2次元の絵と同じ?
これまでの研究で、両眼網膜像差で識別できる距離は数百m程度だということがわかっています。それより遠くにある物は、絵画的奥行き手がかりで距離を判断するため、動きの情報を除けば2次元の絵を見るのと本質的な違いはありません。それなのに、脳内では奥行きをともなう画像として認識されるのは、不思議なことです。
距離感を感じるメカニズムの研究は、トリックアートやだまし絵といった芸術や、視覚に関わる脳機能を損傷した人への治療法の研究など医学分野とも深い関わりがあります。心理学というと、他者の心について調べる科学と考えられがちですが、「私たちは世界をどう認識しているのか」を調べる学際的な科学でもあるのです。
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先生情報 / 大学情報
九州大学 文学部 人文学科 人間科学コース 准教授 光藤 宏行 先生
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