震災で流出した写真を洗浄して返却することの意味
思い出の写真を家族のもとへ
映画『浅田家!』は、2011年の東日本大震災の津波で、家々から流出した写真やアルバムを洗浄して持ち主に返却するというボランティア活動を紹介したものです。これは、岩手県の野田村などで実際にあった活動を元にしています。「せめて写真だけでも」という人たちの熱意もあり、野田村では当初8万枚あった写真は、7万枚ほどが返却できたと言います。しかし家族を亡くした人の中には、楽しかった思い出が詰まった家族写真はつらいと、あえて探しに来ない人もいました。それでも数年後、「娘の結婚式のために、家族写真が欲しいから」と探しに来た人もいたそうです。過去と向き合うことができる時期は、人それぞれ異なるのです。
ささいな記憶を呼び起こす
写真の洗浄と返却を行う活動に、どんな意味があるのでしょうか。例えば写真を眺めているうちに、忘れていた過去の出来事がふと思い出された経験はありませんか。人というのは大切なことですら忘れるもので、ましてやささいな出来事ならなおさらです。写真は、そんなささいな記憶を呼び起こす装置とも言えます。言い換えれば、写真がなければ忘れていたことすら忘れてしまうわけで、二度と思い出さなくなるでしょう。家族の写真を探しに来た人たちは、震災前の楽しく、懐かしい出来事を思い出す手段を探しに訪れたのです。写真があれば、みんなで当時を振り返り、語り合ってささいな出来事に笑い合うこともできます。そしてそれは、まちの復興を支える活力にもなります。
心の復興
「復興」や「まちづくり」と聞くと、ポジティブなイメージを浮かべますが、一方で復興とは以前の風景が一変することを意味します。人によっては気持ちのよりどころを失ったように感じるかもしれません。しかし、復興前のまちの姿を残す写真があれば、断絶した記憶の隙間が埋まって未来へ踏み出す助けになるでしょう。道路や建物だけでなく、人の心を立て直せて初めて復興といえるのです。
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