世界最先端の染色体工学技術によって、がん発生のメカニズムを探る
協調性がなく、自分勝手ながん細胞
正常細胞とがん細胞との違いは何でしょう? シャーレに正常な細胞を入れて培養すると、細胞が満たされこれ以上増えられない状態になると細胞同士が連絡し合って分裂をやめます。しかし、がん細胞はほかの細胞の上に重なり合っても増殖を続けます。がん細胞は細胞同士の連絡機能が失われ、全体としての行動ができない自分勝手な細胞なのです。実は、健康な人でもがんの発生原因であるDNAの異常などの「傷」は常に生じています。私たちがすぐにがんにならないのは、その傷をチェックし修復する機能やおかしな細胞を取り除く機能が働いているからです。
がん発生のメカニズムを解明する
ところが、ストレスや老化などでチェック機能がうまく働かなくなると傷が残り、がん細胞が生まれるチャンスが増えます。最近の研究では、がんになるのはDNAの傷だけでなく、DNAの発現を制御するメチル化・アセチル化といった後天的な修飾(化学反応)システムが壊れることも原因だと考えられています。さらに、がん発生のメカニズムを解明するには、このチェック機能に関わる遺伝子が何かを突き止める必要があります。しかし、人のDNAの場合30億もの塩基対があるので、一つひとつ調べていては、原因遺伝子を突き止めることはできません。
染色体を入り口にして遺伝子を絞り込む
そこで注目されるのが染色体です。コピーされたDNAは正確に娘細胞に分配されやすいように、コンパクトに折りたたまれて染色体という形でいくつかのグループに分かれています(人の場合は46本)。まずがんに関与する染色体を突き止め、さらにその染色体を改変して原因遺伝子が存在する場所を明らかにしていきます。そのためには世界最先端の高度な染色体工学および遺伝子操作技術が必要です。そのようにして有力な原因遺伝子が見つけ、詳しい働きを調べることによって、がん発生の全体像を明らかにしていくのです。がんの詳細なメカニズムが明らかになれば、がんの早期発見や再生医療への応用も可能になるでしょう。
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鳥取大学 医学部 生命科学科 教授 久郷 裕之 先生
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