日本人はなぜマラソンで勝てなくなったのか? ビジネスの視点から
経済活動としてスポーツをとらえてみる
スポーツを社会活動としてとらえると、3つに分かれます。「学校での体育など、教育活動としてのスポーツ」「趣味として楽しむ運動など、文化活動としてのスポーツ」「Jリーグやプロ野球など、ビジネスの要素が関わる経済活動としてのスポーツ」です。特に、ハイレベルな領域で競い合うスポーツ選手の場合、練習環境や生活を維持するため、ビジネスとの関わりは重要な意味を持っています。
世界の変化に対応できなかった「実業団」
マラソンは日本でも昔から注目を集めてきた人気競技で、かつては男女ともに世界トップレベルの選手を多数輩出し、オリンピックや世界陸上でメダルを獲得することもしばしばありました。しかし2000年代の後半から、アフリカなどから、もともとの身体能力が優れていたり、酸素の薄い高地で生まれ育ったりした、プロも含めた強力な選手が各国のマラソンレースに出場するようになると、日本の選手は勝てなくなってしまいました。
原因の1つとして、日本のマラソンを支えてきた、企業による「実業団」というシステムが、世界のマラソンの環境の変化に対応できなくなっている点が挙げられます。世界のトップたちが戦う海外のレースで好成績を残しても金銭的に評価される仕組みが企業内になかったり、企業に所属しているがゆえにマラソンとシーズンが重なる駅伝にも取り組む必要があったりといった点など、さまざまな改善を要望する声もありますが、実現には至っていません。
プロになればうまくいくとは限らない
では、個々のマラソン選手がプロになればうまくいくかというと、必ずしもそうとも言えません。サッカーや野球のようにスタジアムでの観客収入が見込めないマラソンでは、減少傾向にあるテレビの放映料収入以外に収入面でどんな活路を見出せるかが重要になります。選手が生活を維持するには、実業団のシステムの改善を図った方がうまくいく可能性もあります。マラソンに限らずスポーツの将来を考えていく上で、ビジネスの視点は必要不可欠なものなのです。
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一橋大学 商学部 准教授 中村 英仁 先生
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