21世紀数学の未解決懸賞問題 ナビエ・ストークス方程式
数学の難問、ミレニアム懸賞問題
ナビエ・ストークス方程式とは、大気や水などの流体の挙動を記述するのに使われる基本的な偏微分方程式です。天気予報にも応用されているこの方程式は、実は数学的には解決されていない問題を抱えています。
数学の世界では、証明されていない未解決問題がたくさんあります。その中でもこれからの世紀で解くべき7つの難問に対して、アメリカのクレイ数学研究所は2000年、ミレニアム懸賞問題として懸賞金をかけました。ナビエ・ストークス方程式はそのひとつです。
渦の複雑な挙動がポイントに
この方程式の数学的な妥当性は、2次元の場合はすでに証明されていますが、一番現実と関わっている3次元の場合はまだ証明されていないのです。次元間で何が違うのか。そこには渦の存在があります。
川の流れを思い浮かべてみてください。流れの中には渦ができたり消えたりしていますが、流体力学ではこの複雑な渦の動きや多様性が重視されてきました。ナビエ・ストークス方程式に渦をとらえるための細工をすると、3次元の場合には渦の複雑な挙動を引き起こす「ある項」が現れ、この方程式をとたんに難しいものにするのです。
天気予報の基礎方程式として妥当なのか
ミレニアム懸賞問題は、この3次元ナビエ・ストークス方程式に対する解の存在と一意性、もしくは解の崩壊(有限時間で解の微分などができなくなること)のいずれかを示せと言っています。解の存在と一意性とは、方程式が満たすような未来の世界が必ずあるという保証(解の存在)と、ひとつの条件を与えたらその後は必ずひとつの状態しか出てこない(一意性)ということです。この結果は、天気予報の基礎方程式としてナビエ・ストークス方程式が使われていることへの数学的妥当性をも左右することになります。
流体現象をニュートン力学のもとで方程式として記述するところから始まった流体力学ですが、このような古典物理の中にも数理物理学における困難で魅力的な問題があるのです。
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奈良女子大学 理学部 数物科学科 教授 柳沢 卓 先生
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