身体という切り口で漫画やスポーツを読み解く身体文化学とは
身体という切り口から文化を研究する身体文化学
日本における読書は音読が一般的でしたが、明治以降黙読が普及します。国文学者の前田愛は、身体を通した「読む」という行為の変化が、その後の本や文学、若者文化に大きな影響を与えたと指摘しました。このように、身体という切り口から文化をとらえ、研究する学問が身体文化学です。
文化としての「身体」は100年ほど前に主にフランスの社会学で提示され、日本では1980年代以降に広まりました。学問の世界では、身体は精神に従属するものと長く考えられてきましたが、身体を切り口にすることで、これまで見えていなかった社会の姿を明らかにすることができます。
傷つく身体を描いた手塚漫画
身体に関わる領域は、大衆文化に多く見られ、例えば漫画は親和性が高いジャンルです。大塚英志によれば、日本の漫画の発展には、手塚治虫が持ち込んだ「傷つく身体」が大きく関係しています。ディズニーに代表される旧来の表現にかえて、手塚作品には傷や老い、死といった生身の身体が描かれ、日本漫画の可能性が大きく広がりました。藤子・F・不二雄の『ドラえもん』で、自力でジャイアンと戦うのび太の顔がボロボロに傷つく回がありますが、それもまた傷つく身体の系譜にあります。
ジダンの頭突きと自己抑制
身体文化を考える上で、「自己抑制」は興味深いキーワードです。中世まで人々は思ったことをすぐに言葉や態度で表し、感情や欲求などはすぐ表出されることが一般的でした。数百年かけてこうした振る舞いは徐々に消え去り、人々はそうしたものを「自己抑制」するようになるのですが、社会学者エリアスによれば、近代スポーツもまた自己抑制する人々によって誕生したものです。2006年のサッカーW杯で起こったジダン選手の頭突きが反則となるのはこうした歴史の結末であり、逆にスタジアムでフーリガンが暴徒化するのは自己抑制する社会への抵抗なのかもしれません。漫画『スラムダンク』で主人公桜木が「自己抑制」するシーンもこの視点からは興味深いものです。
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先生情報 / 大学情報
奈良女子大学 文学部 人間科学科 教授 鈴木 康史 先生
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