肥満とがんと細い管:血管がつかさどる健康と病気
血管は毎日変化している?
血管というと、あなたは何を思い浮かべますか? 栄養や酸素を血液にのせて供給する機能を思い浮かべると思います。また、見えないということで、「いつもそこにあるもの」というイメージが強く、「動く・構造が変わる」とは思われにくいものです。しかし、血管は、運動の後や病気になったときなどに、その構造をダイナミックに変えています。あなたの体内のミクロレベルの世界では、「血管が伸びる」「構造が変わる」といった現象が毎日繰り返されているのです。
脂肪細胞やがん細胞にも栄養を供給してしまう
「肥満」のメカニズムも、血管の変化と密接に関わっています。脂肪細胞は、血管に対して「ここに血管を伸ばせ」と指令する物質(血管増殖因子)を出して栄養供給されるようにし、細胞を大きくします。その様子は、もともと何もなかったところに道路ができるようなものです。さらに、呼び込まれた血管の周皮細胞と呼ばれる細胞が分化して脂肪に変化し、さらに脂肪が増殖するというメカニズムもわかってきました。
「がん」の成長にも血管が関係しています。がんは非常に活発に活動し、エネルギーを消費して増殖しますが、興味深いことに、その増殖の過程で自分に都合のよいように血管を取り込んでいくのです。
血管を制御して治療、再生医療への貢献を
では、血管が伸びにくいように制御することができれば、がん細胞や脂肪細胞に栄養をやらない、つまり兵糧攻めにして治療できるという可能性が考えられます。現在、血管増殖因子を出さなくさせる、または因子を受け取る部分を阻害するための薬の開発などに向けた研究が進められています。
反対に、因子の働きを活発にして血管を伸ばすように誘導することはまだ難しいのですが、これが可能になるとiPS細胞などから臓器を作る場合の応用も期待できます。血管のネットワークのダイナミックな変化に関する研究は、このように病気の直接の治療から再生医療への貢献にまで広がっているのです。
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岡山大学 医学部 医学科 助教 高橋 賢 先生
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