多文化共生社会のカギとなるエスニック・アイデンティティとは
アイデンティティの対立と理解
エスニック・アイデンティティとは、民族集団への帰属意識や同類意識をさす人類学用語です。内容は大きく2つに分けられ、1つは生物学的に受け継いでいくもので、人種としての遺伝的特徴などです。もう1つは家族や学校教育、地域のコミュニティなど、社会の中で共有される経験によって後天的に身につける言語、生活様式、価値観、宗教などです。
2つ以上のエスニック・アイデンティティが存在する場ではその違いが対立を生み、しばしば差別や摩擦などの問題が起きています。多文化共生社会を実現するには、互いの歴史的、民族的背景を理解することが大切です。
年代とともに変化している在日中国人
在日中国人の歴史とともにエスニック・アイデンティティを考えてみましょう。戦前から現在まで、日本には多くの中国人が移り住んできました。2020年末現在、日本に中長期的に滞在する中国人は約78万人で、そのうち永住している中国人やその家族は約28万人です。その中で、1980年代以降に来日した在日中国人をニューカマー世代、それ以前をオールドカマー世代と呼んでいます。ニューカマー世代の中でも、80年代~90年代は社会主義国家から抜け出し、自由を求めて家族と離れ出稼ぎに来る人たちが主でした。2000年以降は一人っ子政策のもとで、本国で何不自由なく暮らした富裕層の子どもたちが留学してくるケースが多くなりました。
中国と日本、2つのアイデンティティ
中国には56もの少数民族があり、地方ごとに文化や習慣が異なります。そのため、もともと中国人は、個人、地域・民族、国家という重層的なアイデンティティを持ち合わせ、場面に応じて使い分けています。また社会主義国家ということから、国家への帰属意識が高いのも特徴です。そうした中国人が来日し、日本語や日本文化、慣習などに触れることで、新たなエスニック・アイデンティティを身につけ変化していくのです。在日中国人について理解しようとする時、まずはこうした背景を知っておく必要があります。
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横浜市立大学 国際教養学部 国際教養学科 教授 坪谷 美欧子 先生
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