社会の理不尽を歌うラップミュージック
ラップと地元
ラップは、ビートにのせて語るように歌う音楽の表現手法です。歌詞に自分の主張をのせることも多く、自身の地元を「フッド」と呼んで大事にしています。世間には注目されることのない地元への想いや、そこで暮らす自分たちの理不尽な日常生活など、普通に話しても誰にも真剣に聞いてもらえないことを歌詞にして歌うという文化が、ラップの中核となっています。
川崎とラップ
神奈川県川崎市の臨海部は1900年代に工業地帯化され、朝鮮半島の植民地化が進んだ1910年代から30年代にかけて、労働者としての移民が数多く暮らし始めます。そんな移民たちの心のよりどころとして教会が設立され、差別により通園できない子どもたちのために独自の保育園ができました。この保育園を核として、就職差別や指紋押捺などの差別に対抗する運動が起こっていったのです。
教会では現在でも日曜日になると人々が集まります。その一方で、礼拝に退屈した在日3世や4世の若い世代が集まって遊んでいた屋上で、いつしかラップが歌われるようになり、そこからラッパーたちが生まれました。川崎から生まれたラップの歌詞には、先人たちが築きあげた反人種差別のメッセージが継承されています。時には暴力的な言葉が出てくることもありますが、それが彼/彼女らが生きる現実であり、想いをラップにのせることで、自分の生きている社会を意味付けているのです。
新しい社会運動の行方
人権やダイバーシティという概念は、少し前は道徳の時間で教えられる話題でした。しかし現在は、企業のコンプライアンス(遵守すべき目標)でも、必ずといっていいほどダイバーシティという言葉が出てきます。情報化社会の中で、ダイバーシティはこれまでの「規範」から、誰もが知るべき「知識」に変わってきたのです。それとともに社会運動は、デモのような今までの手段に加え、ファッション誌で特集されるなど、身近でカッコいいと感じられる表現が生まれてきました。ラップも同様に、現代の社会運動の一翼を担っている存在だといえるでしょう。
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