人の行動の地理的な側面を考える「行動地理学」
地域のイメージと居住地選択
多くの人は、一生の間に進学・就職・結婚などの出来事をきっかけにして、居住地を移動します。そのたびにどこに住むかという選択に迫られ、好みや生活水準に応じて住む場所を選びます。一見、千差万別に見える居住地選択も、まとまったデータを集めると、似たような傾向があることがわかります。例えば、いくつかの国で、「自由に選べるとしたらどこに住みたいか」を尋ねたところ、現住地を除けば、観光・リゾート地を挙げる人が多いという結果が出ています。実際には、仕事や家庭の事情で希望通りの場所に移住できる人は少ないはずですが、情報化が進んで通勤せずに仕事ができたり、定年退職後の高齢者が増えると、地域のイメージが人の移動に大きな影響を与えることになります。
居住地選択の基準は時代によっても変わる
住む地域を選ぶ際の基準は、家族構成や社会の変化にともなって変わります。例えば、ファミリー層の場合、専業主婦が大半を占めた時代には、働き手である夫の職場への通勤を優先して居住地を決める傾向が見られました。しかし、共働きの家庭が増えた現在では、夫婦双方の通勤を考慮して選んだり、小さな子どもがいる家庭では、保育園や学童保育の利用のしやすさを基準に住む地域を選ぶ傾向も見られるようになりました。最近、顕著になった人口の都心回帰には、そうした選択基準の変化も関係しています。
行政の施策にも影響を及ぼす「行動地理学」
居住地選択のような人の行動は、一見、脈絡がなく不可解なものに見えるかもしれませんが、その背景を調べると理にかなったものであることがわかります。また、人の行動を個々に見ただけではわからなかった行動の原因が、地図に表したりまとまったデータとして処理することで、見えてくることもあります。こうした人の行動を地理学的に見ていくのが、「行動地理学」です。行動地理学は、行政の施策やビジネスの戦略を考える上でも重要な学問なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 都市環境学部 地理環境学科 教授 若林 芳樹 先生
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