理論計算でモノの性質を見る?! カギは電子の分布にあり
なぜ、電子の分布が大事なのか
普通の顕微鏡では観察できない小さな電子は、物質の性質を決める非常に重要な要素の1つであり、電子の分布によって物質の性質が決まります。では、どうすればそれを明らかにできるのでしょうか。
さまざまあるアプローチの1つに、コンピュータ上で電子の分布を計算・シミュレーションし、物質の性質を明らかにする方法があります。シミュレーションにより得られた理論結果と、実験で得られた結果を比較することで、双方向から物質の性質を明らかにしていきます。理論と実験の解釈に一致が見られない場合はその原因を考え、理論と実験の内容を改善していきます。もし、実験と理論で解釈が一致すれば、恐らくその結果が正しいと認識されます。理論と実験の橋渡しをするこのような研究領域を計算物質科学といいます。
性質がわかれば改良できる
こうした計算による物質の性質の解明が、どう役立つのでしょうか? 例えば、ネオジム磁石という世界一強力な磁石があります。主にハイブリッドカーや電気自動車(EV)のモーター部分に使われますが、この磁石は熱に弱いため、高熱のエンジンルームなどでは性能が低下します。性能が低下する原因をコンピュータシミュレーションで特定することができれば、性能向上のための研究に繋がる可能性があります。ほかにも世の中のさまざまな電子機器のモーターに使用されているので、高性能磁石の開発は、社会全体の消費電力を抑えてくれると期待されます。
なんでも計算で探る
磁石のほかにも、触媒や工業製品で活用されるナノ粒子は、実験的なアプローチによりどういうものができるかが異なるなど、未解明の部分が多くあります。ナノ粒子の性質や安定性が理論計算で解明できれば、試料作成や機能向上に役立ちます。
このように、理論計算という方法で探れば、物質の性質が解明できると共に、ときに物質の欠点や欠損の原因も明らかにできます。また、たとえ予測と違う計算結果が出ても、そこには予期せぬ理由が潜んでいたり、新たな発見の始まりだったりするのです。
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名桜大学 人間健康学部 健康情報学科 上級准教授 立津 慶幸 先生
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