天然物化学は新たな物質を発見する「宝探し」
言い伝えか、確かなものか?
健康に良いといわれている食べ物はたくさんあります。それは単なる言い伝えばかりではなく、昔の人の経験によって培われた確かな知見であることも多くあります。
人体を健康へ導く要因の一つに、人体に備わっている特定の酵素の動きを抑制する働きが挙げられます。例えば、でんぷんを分解して糖分をつくるα-グルコシダーゼという酵素の活動を阻害すると、血中の糖の濃度が抑えられるため、糖尿病の予防や治療への効果が期待できます。
特定の酵素の動きを抑制する
そこで、料理をおいしくするだけでなく健康に効果があるといわれてきたハーブやスパイスから、酵素の活動を阻害する成分を探す研究が行われています。ハーブやスパイスをアルコールなどに漬けて成分を抽出し、酵素の反応液に加えます。反応液は、反応が進むと色が出るように工夫がしてあるので、もし抽出液に酵素活動の阻害成分が含まれていれば、反応液の色は変わりません。色の変化を指標にして、阻害効果の強いものをピックアップしていきます。この研究から、いくつかのハーブやスパイスの抽出液がα-グルコシターゼに対して強い抑制力を持っていることがわかってきました。
前例がない物質を探せ
今後は、この抽出液を精製したものに対して酵素阻害試験を行う手順を何度も繰り返し、純粋な単一成分にたどり着いた時点で化学構造を決定します。もしも、世界中の物質のデータベースと突き合わせて、まったく同じ化学構造がなければ、世界で初めての物質の発見です。前例がない物質が発見できた場合には物質特許を取ることができ、その物質を優先的に使用して製品化につなげられるかもしれません。
このように、植物などの生物が産出する物質を発見し、化学的に研究する学問を「天然物化学」といいます。古くは、抗生物質のペニシリンが青カビから発見されました。自然界にはまだ発見されていない物質がたくさん存在します。天然物化学の研究者は、宝探しのようにその発見に挑んでいるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科 教授 高橋 公咲 先生
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