生殖細胞はなぜ眠る? 世界初の体外培養技術で卵子の謎に挑む
生殖細胞の不思議な性質
私たちの体を形づくる細胞は、一定回数分裂すると老化して死にます。ところが、体を構成する200種類以上の細胞の中で唯一、生殖細胞だけは老化を抑制しており、死ぬこともありません。分裂し続けて次の世代の個体を作るのです。生殖細胞の一つである卵母細胞は、女性が胎児のときに約700万個作られて、減数分裂の途中で休眠状態に入ります。これはその後約50年にわたって細胞の老化を防ぎ、次世代へ伝える細胞の質を維持するためですが、その休眠のメカニズムはよくわかっていません。卵母細胞の休眠システムが損なわれると不妊になるため、休眠システムの解明は不妊の原因を知ることや、さらに体細胞の老化の防止にもつながります。
休眠システムを解き明かす
卵母細胞の休眠システムは、数多くの遺伝子が複雑に関わり合ったネットワークによって制御されていると考えられています。現在、休眠システムへの関与がわかっている転写因子が一つ見つかっており、その転写因子がゲノムの中のどの遺伝子の発現を制御しているのか解析が進められています。これを突破口に、休眠システムの遺伝子ネットワークの全容解明が目標とされています。
実験に使われる生殖細胞は、これまでマウスなどの生体から採取していたため、時間がかかるうえに扱いにくく、得られる細胞の数にも限界がありました。これに対して、ES細胞やiPS細胞から体外培養で生殖細胞を作り出す技術が世界で初めて確立されて、大量に生殖細胞を作ること、それを体外で調べることが可能になりました。実験動物を使わないので、動物愛護の観点からも評価されています。
医療・環境・畜産への応用も
生殖細胞の体外培養技術を使えば、マウスの体細胞から卵子を作り、子マウスを誕生させることができます。この技術をほかの動物や人へも拡張して、不妊治療などの医療分野だけではなく、卵子作成による絶滅危惧種の保護や、家畜の育種といった畜産への応用も目的とされています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 医学部 医学科 教授 林 克彦 先生
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