講義No.08369 日本文学

『桃太郎』も『ねずみの嫁入り』も! 口伝えに広がる文学の世界

『桃太郎』も『ねずみの嫁入り』も! 口伝えに広がる文学の世界

口頭で伝えるからこそ、変化が起こる

昔話や伝説、世間話など、文字ではなく、口頭で伝わった文学を「口承文芸(文学)」と呼びます。『桃太郎』や『こぶとりじいさん』なども口承文芸です。口頭で伝えられているので、語り手が言葉を足したり、内容を変えてしまうことがあるのが特徴です。例えば、『口裂け女』は、岐阜の山奥のおばあさんの家に、口の裂けた女の人が出たという話だけだったのに、地域によっては、赤いコートを着ているとか、三人姉妹だとか、捕まったら生きて帰れないなどのエピソードが加わり、日本全国に広がりました。

インドから伝わった『ねずみの嫁入り』

口承文芸の中には、口伝えに世界に広がったものもあります。日本でも有名な『ねずみの嫁入り』は、もともとインドのお話で3世紀頃に作られた『パンチャタントラ』という説話集に載っています。それが、東南アジア、中国、朝鮮半島を口伝えで伝わり、日本に来ました。日本の文献に登場するのは、13世紀の『沙石集』ですから、1000年ほどかけて伝わったことになります。
国や文化を超えて伝わった背景には、ねずみがあらゆる場所にすんでいることや、高望みをしたけど、落ち着くべき場所に落ち着いたというわかりやすい話であったことが理由だと考えられます。話の内容が特徴的で万人の共感を得にくいものには、こうした伝播があまり起こらず、特定の国や地域の文化の特質を表していることがあります。

インターネットを使った口承文芸もある

民俗学で学ぶような昔話をイメージしやすい口承文芸ですが、現在も生まれています。2003年頃、インターネットの掲示板で生まれた「くねくね」が一例です。インターネットでの書き込みが注目を集め、ネット上で広まったほか、それを見たという人が口頭で広めました。旧来型の口承文芸とは異なり、拡散スピードが速く、より正確に伝わり変化が少ないという特徴があります。こうしたネット上の都市伝説は「ネットロア」と呼ばれ、学術的には口承文芸の一つとされています。

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國學院大學 文学部 日本文学科 教授 飯倉 義之 先生

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民俗学

メッセージ

あなたは「文学」というと昔の作品や作家を研究する、現代にはあまり関係がないものだというイメージを持っているかもしれません。しかし、文学は過去だけが対象ではありません。
現在も文学作品は生まれていますし、文学は現代の私たちの社会や生き方を見つめるきっかけを与えてくれる、とても有益な領域です。あなたも私たちと一緒に文学研究の可能性を探ってみませんか。

先生への質問

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140年以上にわたって、日本に関する教育研究を推進してきた國學院大學は、物事の本質を問い直す学びを大切にしてきました。6学部13学科を擁する現在は、未来の共生社会を創り出す人材の育成を目標に、各学問の立場から日本と世界への理解を深める学びを提供しています。既存の知を熟考し、新たな「知の創造」に挑む本学での4年間は、自身の自己実現や卒業後のキャリアで求められる人間力を涵養するための第一歩となるはずです。