「あたりまえ」を言語化する―文化人類的フィールドワーク
人間が作ったものすべてが「文化人類学」の対象
文化人類学は人間が後天的に作ったものすべてが対象です。そして、文化人類学を特徴づけている研究方法がフィールドワークです。研究対象とする地域で人々と共に時間を過ごし、その認識や考え方をすくいあげ、検討し、他者へ伝える作業です。
フィールドワークと災害復興
例えば、災害からの復興も研究の対象になります。過去の震災被災地で、地域に伝わる信仰や人間関係を最大限に生かし、短期間で復興を遂げた地域があります。宅地造成のために井戸を埋めたのですが、水神の怒りをかわないように「水神あげ」という儀礼を行いました。一見非科学的ですが、一変した生活環境のなかで、住民が被災前後の生活につながりを見出し、新しい生活を安心して始めるためには、このプロセスが重要だったのです。また、宅地造成のために、住民が土地を一旦手放すことに同意した際には、親族の説得が大きな力となりました。日常の濃密なつきあいがあったからこそであり、それは不便な生活環境を快適に過ごすための知恵でした。濃密なつきあいには良い面と悪い面がありますが、ここでは有効に活用されました。こういった信仰や社会関係をひっくるめて「文化」であり、地域の資源です。その地域の人にとっては「あたりまえ」で、それゆえ形としてとらえにくいことを、フィールドワーカーがヨソ者としての視点ですくいあげ、言語化することで、それらの資源は「知」として活用されるのです。
問題点も見えてきました。生活が便利になった反面、住民同士が助け合う機会も減り、次に大きな危機にみまわれたとき、助け合うことができないのではないかと指摘されています。
社会に関わる文化人類学
日本の現状をみると、フィールドワークの成果を現実の社会へ十分に還元しているとは言えません。具体的な還元方法は模索中ですが、災害復興に関して言えば、その過程を継続的に追い続けることで、さまざまな課題に対して地域事情に即した援助や提案のために力を発揮できるのではないかと考えられています。
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先生情報 / 大学情報
大東文化大学 社会学部 社会学科 教授 中野 紀和 先生
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