SNSを先取り? 中国古典文学の作者とそのネットワーク

SNSを先取り? 中国古典文学の作者とそのネットワーク

明末清初の文学

17世紀、中国では明の末期から清の初期(明末清初)にかけて、文学が大きな盛り上がりを見せました。『三国志演義』や『水滸伝』、『西遊記』など、日本でもおなじみの中国文学はこの時代に書かれたものです。
当時の文人(作家)の一人に、『板橋(はんきょう)雑記』で知られる余懐がいました。彼は明から清への王朝の交代、つまり戦争を経験した人物です。『板橋雑記』では、戦前に通っていた遊里(日本でいう遊郭)での思い出をノスタルジックに描いています。この作品は、出版文化が確立されつつあった江戸時代の日本にも伝わり、多くの庶民を楽しませました。また、明治生まれの作家・永井荷風に至るまで、日本の文学に大きな影響を与えました。

張潮の文人ネットワーク

余懐と同時代に活躍した文人に、張潮がいます。張潮は自ら創作するというより、現在でいう編集者として力を振るい、『虞初新志』などの叢書(複数の作品をまとめた書物)を数多く世に出しました。彼が残した千五百通ともいわれる手紙からは、原稿が届かず代わりの作品を依頼したり、遅れた原稿を次の巻にまわしたりといった、編集作業の苦労が読み取れます。誰が誰に依頼して、どのように作品がまとめられていったのかといったことも、当時の手紙からたどることができます。また、この時代には本の文中にさまざまな人が感想や意見を書き込む「評語」と呼ばれる文化も生まれました。『幽夢影』はその一例です。これは、現代のSNSやレビューサイトの原型ともいえるでしょう。

文学は合わせ鏡

三百年以上も前の中国文学を研究する目的は、当時の社会や文化を知ることだけではありません。例えば、文学がどのようにつくられ、文化として定着していったのか、作者たちはどんな価値観をもち、何に葛藤していたのか、さらには社会問題やモラルに共通する点はあったのか、といったことも目的です。それらが明らかになれば、私たちはその文学を「合わせ鏡」のように使って、現代の日本や私たち自身のあり方について考えることができるのです。

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先生情報 / 大学情報

大東文化大学 文学部 中国文学科 教授 小塚 由博 先生

大東文化大学文学部 中国文学科 教授小塚 由博 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

中国文学

先生が目指すSDGs

メッセージ

本学の中国文学科には、私のように文学を専門とする研究者だけでなく、哲学や歴史、書道、宗教など、多彩な専門分野の教員がそろっています。これだけ多分野の専門家が集まる学科は、今では珍しくなりました。例えば、文学に興味をもって入学し、学ぶうちに歴史に関心が移ったとしても、それに対応できる体制が整っているのです。図書館にも学習や研究に役立つ豊富な資料がそろっていますので、ぜひこの恵まれた環境の中で、自分の関心を思いきり追究してみてください。

先生への質問

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大東文化大学に関心を持ったあなたは

大東文化大学は、文、外国語、経済、経営、法、国際関係、スポーツ・健康科学、社会学の8学部20学科を擁する総合大学です。進路に合わせて自由に選べる科目の多さと、他学科の科目も選択できるカリキュラムも特徴のひとつ。1923年に当時の国会決議によって設立された本学の建学精神は「東西文化の融合」。この精神は今も息づいており、毎年約300名の学生が海外に留学し、海外からは400名の留学生が学ぶ国際色豊かな大学です。また伝統的に公務員・教員への就職に強く、全国各地で卒業生が活躍しています。