講義No.08476 日本語学

発音の変化を探ることで見えてくる、日本語の奥深さ

発音の変化を探ることで見えてくる、日本語の奥深さ

「ニッポン」と「ニホン」がある理由

なぜ「日本」は「ニッポン」と「ニホン」という2つの読み方をするのでしょう? 平安時代の初期まで、日本語には「ハヒフヘホ」という発音はなく、「パピプペポ」と発音していました。なぜそれがわかるかといえば、当時は、この音を万葉仮名で「波比富部保」と書いていました。それを当時の中国の文献に当てはめて発音を調べると、「パピプペポ」としか読めないのです。
これが11世紀頃になると「ファフィフフェフォ」という発音になります。そして現在のような「ハヒフヘホ」という音になったのは江戸時代です。こうした発音の変化は世界中で見られ、「グリムの法則」と呼ばれます。つまり「日本」の読み方は、「ニッポン」「ニフォン」を経て「ニホン」に変化したのです。そして古い音も残り、新しい音も受け入れられたので、読み方が混在しているのです。

なくなりつつある音「鼻濁音」

日本語には、ほかにも変化している音があります。それはガ行の「鼻濁音」が消滅しつつあることです。日本では、もともとほとんどの「が」が鼻濁音でしたが、東北地方の人の発音は鼻濁音ではありませんでした。江戸時代に、東北地方の人が江戸に流入してくると、この鼻濁音ではない「が」が入ってきて、次第に全国に広まっていきました。1800年代初頭に書かれた式亭三馬の『浮世風呂』では、鼻濁音は普通の「が」と表記され、鼻濁音ではない「が」は「か」に半濁音記号の「○」がついていて、はっきり区別されていたことがわかります。

変わり続ける日本語の発音

このように、変化してきた日本語の発音は、これからも変化していくと考えられています。例えば、すでに若い人の一部はFやVの発音を英語のように唇をかんで発音するようになっています。これが広まっていくと、将来の日本語の発音は今とはかなり違うものになるのかもしれません。普段なにげなく使っている言葉を調べていくと、今まで気づかなかった日本語の一面を知ることができるのです。

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大東文化大学 文学部 中国文学科 教授 山口 謠司 先生

大東文化大学 文学部 中国文学科 教授 山口 謠司 先生

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日本語学

メッセージ

まだタイムマシンはありませんが、その代わり、大学に入ると源資料を突き詰めて見ることができます。言葉の問題は「ニッポン」と「ニホン」の違いのように、身近なところにたくさんあります。一緒に問題を見つけて、片づけていきましょう。そのための資料の探し方や使い方も教えるので、自分で疑問を解決できるようになっていきます。
すると、社会に出てから自分で問題提起をしてその問題を解決する力がつきます。それはひとっ飛びではできませんが、一つひとつ丹念にやっていくことで、時空を行き来することができるようになるでしょう。

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大東文化大学は、文、外国語、経済、経営、法、国際関係、スポーツ・健康科学、社会学の8学部20学科を擁する総合大学です。進路に合わせて自由に選べる科目の多さと、他学科の科目も選択できるカリキュラムも特徴のひとつ。1923年に当時の国会決議によって設立された本学の建学精神は「東西文化の融合」。この精神は今も息づいており、毎年約400名の学生が海外に留学し、海外からは600名の留学生が学ぶ国際色豊かな大学です。また伝統的に公務員・教員への就職に強く、全国各地で卒業生が活躍しています。