小学校2年生の文学教材『スイミー』を教師の視点で読み解く
小学校2年生国語教科書掲載の『スイミー』
あなたは小学校2年生の国語の教科書に載っていた『スイミー』という話を覚えていますか。赤い魚のきょうだいの中で一匹だけ黒いのが主人公のスイミーです。スイミーのきょうだいは大きなまぐろに食べられてしまいますが、スイミーはほかの赤い魚の群れとともに一匹の大きな魚のふりをして、まぐろを追い出します。印象に残っているのは「スイミーは一匹だけ真っ黒だった」という部分だけのことが多いのですが、大人になって読み直すと違う側面が見えてきます。
物語の意味を深く考えてみる
最初と最後の場面を比較すると、最初は「たのしくくらしていた」とありますし、最後も食べられそうになった大きな魚を追い出して平和な世界になります。しかし、2つの場面の「平和」は決定的に違います。最初の場面は、泳ぐのが速いスイミーしか生き残れない「見せかけの平和」でしかなく、大きな魚の出現により、もろくも崩れ去ってしまいます。しかし最後の場面では再び危機が訪れても対処する方法がわかっているのですから「本当の平和」が訪れたと言えます。
また、物語の中盤で、きょうだいが大きな魚に食べられてしまい、孤独に海の中をさまよっていたスイミーはふと海の中の美しさに気がつきます。今まで当たり前のように広がっていた世界の素晴らしさに気づいたのは、大きな心の喪失があったからでしょう。スイミーは辛い経験をし、それを乗り越えることで、仲間とともに真の平和をつかむことができたのです。
教師の視点から作品を読み込む
こうやって大人の視点から読み直すと、子どもの頃に読んだときと印象が変わります。とても深い内容の、価値のある話だったという再発見があります。大人になった眼で読むことで、私たちの生き方に関わる文学作品として読むことができるのです。
受験では文章を正確に「読み取る」力が求められるのですが、大学での学びではさらに文学作品を「掘り下げて意味付けをする」ことが必要です。教師は、その上で子どもたちに授業をすることが大切なのです。
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先生情報 / 大学情報
大東文化大学 文学部 教育学科 准教授 山中 吾郎 先生
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