講義No.08557 生物学

細胞が自らのタンパク質を食べるオートファジーのメカニズムを探る

細胞が自らのタンパク質を食べるオートファジーのメカニズムを探る

細胞の不思議な働き「オートファジー」

細胞には、まだまだ解明されていない不思議な働きがたくさんあります。その一つが「オートファジー」(自食作用)と呼ばれる機能です。これは細胞が自分の中にあるタンパク質を隔離膜という膜で覆い、それがリソソームが持つ酵素と結合して分解される作用をさし、まさに自らを食べてしまうような動きです。
人間の細胞でも、このオートファジーは盛んに行われていることがわかっています。オートファジーによって分解されたタンパク質は再利用され、細胞を健康な状態に保ったり、不足したタンパク質を補給したりと、生命活動に重要な役割を果たしています。

オートファジーに必要な分子の一つを発見

大隅良典教授は、「オートファジーの仕組みの発見」によって、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。細胞がオートファジーを起こす際には、必ず「ATG」という分子が必要なことを、初めて証明したからです。この発見が、オートファジーの研究の進展に大きく貢献しました。ただし、オートファジーがどのようにして起こるのかという基本的なメカニズムは、まだほとんどわかっていません。例えば、「タンパク質を覆う隔離膜は、どうやってできるのか」「どうして袋状になってタンパク質を閉じこめることができるのか」「リソソームはなぜタンパク質を取り込んだ袋とくっつき、細胞内のほかのものとはくっつかないのか」などの解明も、これからの課題です。

化学・生物学・物理学などからアプローチ

現在、オートファジーのメカニズムの解明をめざして、地道で多角的な研究が続いています。生物学だけでなく、化学や物理学の知見も取り入れながら進められています。例えば、隔離膜が袋状になるとき、膜のどこにどんな力が働いているのかを物理学からも明らかにしようとしています。まさに手探りの状態で一つひとつ謎の解明に挑んでいます。こうした基礎研究の集積が、生物に対する新しい見方・考え方の発見につながっていくのです。

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先生情報 / 大学情報

東京大学 医学部 医学科 教授 水島 昇 先生

東京大学 医学部 医学科 教授 水島 昇 先生

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生物学、分子生物学

メッセージ

高校時代は、いろいろなことを幅広く吸収できる、ほぼ最後のチャンスです。理屈なしに記憶することができ、それは大人になってからも消えません。将来役に立つか立たないかなどは考えずに、多くのことに触れて自分で考えることが大切です。
高校時代に知っている世界は、限られた狭い範囲でしかありません。その狭い枠内で将来を決めようと焦る必要はありません。本当に大事なことはずっと後からやって来るので、それに出会ったときに逃さないためにも、今は幅広い知識の吸収に努めてください。

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