細胞が自らのタンパク質を食べるオートファジーのメカニズムを探る
細胞の不思議な働き「オートファジー」
細胞には、まだまだ解明されていない不思議な働きがたくさんあります。その一つが「オートファジー」(自食作用)と呼ばれる機能です。これは細胞が自分の中にあるタンパク質を隔離膜という膜で覆い、それがリソソームが持つ酵素と結合して分解される作用をさし、まさに自らを食べてしまうような動きです。
人間の細胞でも、このオートファジーは盛んに行われていることがわかっています。オートファジーによって分解されたタンパク質は再利用され、細胞を健康な状態に保ったり、不足したタンパク質を補給したりと、生命活動に重要な役割を果たしています。
オートファジーに必要な分子の一つを発見
大隅良典教授は、「オートファジーの仕組みの発見」によって、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。細胞がオートファジーを起こす際には、必ず「ATG」という分子が必要なことを、初めて証明したからです。この発見が、オートファジーの研究の進展に大きく貢献しました。ただし、オートファジーがどのようにして起こるのかという基本的なメカニズムは、まだほとんどわかっていません。例えば、「タンパク質を覆う隔離膜は、どうやってできるのか」「どうして袋状になってタンパク質を閉じこめることができるのか」「リソソームはなぜタンパク質を取り込んだ袋とくっつき、細胞内のほかのものとはくっつかないのか」などの解明も、これからの課題です。
化学・生物学・物理学などからアプローチ
現在、オートファジーのメカニズムの解明をめざして、地道で多角的な研究が続いています。生物学だけでなく、化学や物理学の知見も取り入れながら進められています。例えば、隔離膜が袋状になるとき、膜のどこにどんな力が働いているのかを物理学からも明らかにしようとしています。まさに手探りの状態で一つひとつ謎の解明に挑んでいます。こうした基礎研究の集積が、生物に対する新しい見方・考え方の発見につながっていくのです。
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先生情報 / 大学情報
東京大学 医学部 医学科 教授 水島 昇 先生
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