血液の流れをシミュレーションする

血液の流れをシミュレーションする

複雑で膨大な血管の現象

一人の人間の血管をすべてつなぎ合わせると、9万km(地球を2周と1/4周分)にもなると言われています。また、直径約25mm(10円玉くらい)の大動脈から、4μm(マイクロメートル)ほどしかない血管まであります。髪の毛1本の太さがおよそ80μmですから、いかに細いかがわかります。
血管の中を血液が流れています。実は比較的太い動脈の中を流れる血液の様子(血行動態)と、「動脈硬化」という血管病変とは密接な関係があります。

血行動態が、動脈硬化に関与している

動脈硬化とは、動脈血管の壁(血管壁)が厚くなり、血管の弾力が失われて硬くなる病気です。放っておくと、心疾患や脳血管障がいなどにつながりやすくなります。
それでは、なぜ動脈硬化は起こるのでしょうか。
血液が血管を流れるとき、血行は血管壁をこすります。血管壁に一定の力(壁面剪断(せんだん)応力)が加わっている状態です。この力が弱すぎると、血液のなかにあるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が血管壁の中に取り込まれる量が増えてしまうのです。その結果、血管壁にLDLコレステロールが溜まり、それをマクロファージという細胞が取り込んで膨張し、血管壁を厚くして動脈硬化を起こすのです。

血液の流れをシミュレーションするとは

それでは、どのような血行動態の時に、こうした血管病変が起こるのでしょうか? それをコンピュータ・シミュレーションを使って明らかにしようとする研究が進んでいます。
この研究は、人間の血管の形が一人ひとり微妙に違っているので、それぞれの患者の医用画像(CTやMRI)から得られたデータに基づいて個別にシミュレーションし、「こういう血行動態のときにはこうなる」ことを予測して、治療計画や予防に役立てようというものです。
これまで医療分野では、臨床試験、疫学調査、動物実験などに依拠した研究が行われてきました。これらにコンピュータ・シミュレーションによる研究が加われば、安心で安全な医療の発展に大きく貢献することになるでしょう。

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東京大学 生産技術研究所 機械・生体系部門 教授 大島 まり 先生

東京大学 生産技術研究所 機械・生体系部門 教授 大島 まり 先生

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数学、物理学、機械工学、生体工学

メッセージ

理数系の研究というと、「なんだか難しそう」とか「複雑で専門的すぎて、わかりにくい」という感想をもつ人が少なくないと思います。でも、研究というのは、高校で勉強している数学や理科の延長線上にあり、それを統合したものなのです。決して手の届かないものではないので、どんどんチャレンジしてもらいたいと思います。物事を「俯瞰(ふかん)する能力」、「問題把握能力・解決能力」、そしてそれらを他者と共有するための「コミュニケーション能力」が未来の科学者には必要です。それらを身につけてほしいと思います。

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