京は江戸よりスゴい? 「名所図会」から江戸時代の「いま」を読む
書物のなかの「絵」
江戸時代は、挿絵のある書物が多く流通していました。絵は読者へ視覚的に情報を伝える役割を担っていました。とくに、江戸後期に盛んに刊行された「名所図会」をみると、絵が文字の情報以上に多くのことを読者へ伝えていたことがわかります。「名所図会」は名所を紹介するガイドブックのようなものですが、絵と文章の情報から当時の文化や風習、人々の知識や教養までみえてきます。
空飛ぶ久米仙人、じつは現代にも?
奈良の名所を描いた『大和名所図会』に、平安時代末期に成立した『今昔物語集』に登場する久米仙人のエピソードが紹介されています。久米仙人は雲に乗り空を飛べましたが、あるとき川で洗濯する若い女性の脚をみて欲情し、神通力を失って落下してしまいます。そんな久米仙人ゆかりの地が、『大和名所図会』に描かれた奈良県橿原市の「いもあらい川」があったあたりです。古くは女性を「妹(いも)」と表現したため、「妹洗い」が地名の由来になったともいわれています。これは俗説とされていますが、当時の人々が久米仙人の説話を土地とつなげて理解していたことがわかります。
ところでこの久米仙人、じつは人物造形に『ドラゴンボール』の亀仙人と共通点が多く、そのモチーフになったともいわれます。江戸時代には地名の由来として知られていた久米仙人が、現代の私たちにとっては親しみ深い漫画のパロディ元にもなっているのです。
歴史のなかの「名所図会」
また、京・大坂・江戸の三都で出版された『東海道名所図会』をひも解くと、当時の朝廷(京)と幕府(江戸)の微妙な力関係が編集方針に反映されていることが読みとれます。たとえば、江戸を象徴する富士山と京を象徴する比叡山との対比や、華やかだった平安時代を意識して再建された内裏の絵などから、「江戸よりも京のほうが上」という、朝廷から幕府への挑戦的な姿勢がうかがえます。このように、絵のなかに作り手の真意が隠されているのも「名所図会」の魅力のひとつです。単なる観光案内にとどまらない奥深さがあるのです。
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先生情報 / 大学情報
天理大学 人文学部 国文学国語学科 教授 西野 由紀 先生
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