講義No.08608 数学 医学

シマウマの模様から心室細動まで~偏微分方程式で表せる世界~

シマウマの模様から心室細動まで~偏微分方程式で表せる世界~

さまざまな現象を方程式で表す

世の中で起こるさまざまな現象は、「偏微分方程式」と呼ばれる数式の形で表すことが可能です。天気予報、流体の運動、動物の体の模様、伝染病の伝播、渋滞、経済活動など、時間と空間に依存する現象はすべてと言っていいでしょう。例えば、シマウマなどの体の模様は、メラニン色素を誘発する物質と抑制する物質の2種の物質がどう分布するかによって決まります。その分布の仕方が方程式で表せるのです。

解けない方程式をどうする?

ただ、2次方程式には解の公式がありますが、偏微分方程式には解の公式がありません。非常に複雑で、公式も存在しないため、人間の力では解を出すことができません。そこで、解を出すのではなく、「解の性質」だけを取り出すことで、現象をある程度理解できるようにします。天気予報で言えば、「西高東低の気圧配置」から、コンピュータによるシミュレーションをしなくても「気温が下がる確率が高い」ということがわかります。これが、「解の性質」です。

心室細動も方程式で

街の中などいろいろなところにAEDの装置が置かれているので、心室細動について知られるようになってきました。心室細動とは、心臓が正常な拍動にならず、細動と呼ばれる細かい振動になってしまうことで、全身に血液を送ることができなくなる状態を言います。その細動を止め、心臓を正常に戻すための装置がAED(自動体外式除細動器)というわけです。心臓の拍動という現象も、偏微分方程式で表すことができます。
心室細動は、心室内の傷や細胞の異常によって引き起こされるケースが多いことがわかっています。心臓は、電気刺激によって拍動していますが、傷などがあると、電気信号の波が乱れることで、細動を起こしてしまいます。偏微分方程式を使って心室細動の性質を把握することができれば、細動を起こしやすい患者を見つけることができます。そして、細動を起こしにくくする治療をほどこすことができるようになります。偏微分方程式が、人の命を救うのです。

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先生情報 / 大学情報

明治大学 総合数理学部 現象数理学科 教授 二宮 広和 先生

明治大学 総合数理学部 現象数理学科 教授 二宮 広和 先生

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現象数理学

メッセージ

数学というと堅く、すでに出来上がっているイメージがあるかもしれませんが、数学は発展し続けています。そんな数学の1つが「現象数理学」です。
私が研究している心室細動は、数学とはまったく関係ないように見えますが、心筋細胞の動きも偏微分方程式で記述されます。偏微分方程式は、自然現象や社会現象などの幅広い範囲の現象を記述できますが、解の公式がないため、方程式を解くことなくどうやって現象を解明するのかを研究しています。「解けない数式を解きたい」、「新しい数学を作りたい」というあなた、ぜひ一緒に学びましょう。

先生への質問

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