溶ける薬ばかりじゃない! 溶けない薬を溶かす研究
薬はそもそも溶けない!
例えば、がん細胞にふりかけた薬品がそのがん細胞をやっつけることができれば、その薬品はがん細胞に効く薬と判断されます。そのような細胞実験の段階では、水に溶けない薬品は有機溶媒(溶けない物質を溶かすもの)に溶かして使います。しかし、その溶媒に毒性があれば人に投与する場合には使えないので、人に使用するには毒性のない添加剤を薬に混ぜて溶けやすくする必要があります。溶けなければ人体に吸収されないからです。添加剤を加えなければ、1mlにナノグラム(10億分の1グラム)単位と、ほとんど溶けない薬も多いのです。
分子レベルで添加剤を考える
どの薬にどの添加剤が適しているかは、分子レベルで検討する必要があります。薬の分子の構造と添加剤の分子の構造から組み合わせを考えるのです。溶ける添加剤で溶けない薬を包むような分子の構造にしたり、溶けない薬と溶ける添加剤の分子の複合体を作ったりします。あるいは薬の粒子をものすごく小さくすることによって成分を溶け出やすくするという方法もあります。通常であれば薬の粒子のサイズは0.1mmくらいですが、これを何らかの方法で小さくすれば、水に入れたとき、水と接する表面積が増えて溶けやすくなるのです。
薬が吸収される環境で分子状態を測定して確認
溶けやすくすることで生体への吸収率が上がりますが、どうして吸収率が上がったのかは、分子が実際にどのような状態になっているのかを測定してみなければわかりません。薬は主に小腸の粘膜から吸収されますが、このときに分子がどういう状態かで、うまく吸収されるかが決まるのです。
多くの場合、薬は水で服用しますし、薬が体内に入れば消化管液に触れるので、消化管液に入ったときにどんな状態になっているかを測定する必要があります。小腸内と同じ環境で測定した結果、分子が当初の設計通りに正しく結合した状態であれば、溶けやすい性質を維持できているということになるのです。
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先生情報 / 大学情報
千葉大学 薬学部 教授 森部 久仁一 先生
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