開発途上国の防災システムから日本が学ぶこと
多くの人命が助かった「ソロモンの奇跡」とは?
2013年、オーストラリアの東のソロモン諸島で、マグニチュード8の地震が起こり、3分後には津波が来襲し、10人が犠牲になりました。日本の例を見ると、地震の3分後に津波が襲った北海道南西沖地震では100人以上の犠牲者が出ています。単純な比較はできませんが、防潮堤もない、緊急の防災情報システムもない、開発途上国の島国でなぜ、犠牲者が少なくて済んだのか、この事例は「ソロモンの奇跡」と呼ばれて、詳しい調査が行われました。
地震多発地帯で昔から培われた防災意識
ソロモン諸島は、日本同様環太平洋造山帯に位置し、太平洋プレートとオーストラリアプレートが接する境界上にある地震多発地帯です。住民は、自然への畏敬の念が強く、昔からの伝承を信じて地震が起きたら高台に逃げるという行動を日常的にとってきました。さらに、地域の人々の結びつきが強く、避難できない高齢者や小さい子どもは、成人男性が助けるということが自然に行われていたのです。避難後に飼っていた豚を逃がそうと家に戻って犠牲になった女の子の痛ましい例もありましたが、多くの人々は自らの行動で身を守ることができたのです。
構造物に頼らない災害対応力の高さが鍵
津波で島内家屋の72%が流失、倒壊したネンドー島を調査したところ、地震の数日前に、「東日本大震災」の映像が上映され避難路が確認されていたことがわかりました。この地域で大きな津波が来たのは、100年以上前なので、実際に津波を経験した住民はいなかったのです。しかし、祖先からの伝承と、ビデオによる啓発活動で、より徹底した避難行動が取られました。
島には津波避難タワーも防潮堤も、緊急情報システムもありません。しかし、人的被害軽減に特化した防災意識が多くの命を救ったのです。ソロモンの奇跡は、ハードや情報など、ハイテクに依存するのではなく、守るべきは人命のみ、という防災意識を持つことが重要だということを示唆しています。
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先生情報 / 大学情報
福島大学 人間発達文化学類 教授 中村 洋介 先生
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