環境磁気学-磁性鉱物に着目した、新しい環境調査

「古地磁気学」から派生した「環境磁気学」
すべての物質は、「磁場」に対して何らかの反応を示します。その中で、磁場を取り除いても磁力が残る鉱物などを「磁性鉱物」と呼びます。岩石などに含まれる磁性鉱物の磁気を調べることで、太古の地球の変化などを調べる「古地磁気学」という学問が長く研究されてきました。
そして30~40年前から、それを環境調査に応用する「環境磁気学」がヨーロッパで始まりました。土壌や大気中の物質の磁気を調べることにより、地域の環境の特徴や変化を知ろうという学問で、日本でも10年ほど前から新しい環境調査の手法として研究が行われています。
人間の活動で発生する磁性鉱物の微粒子
代表的な磁性鉱物の一つが鉄酸化物です。鉄は人間の生活の中でたくさん使われており、そこから発生した微細な粒子が大気中を浮遊しています。例えば石炭火力発電や、自動車の走行でも酸化鉄の微粒子が発生しています。
現段階で、山間部よりも都市部のほうが磁性鉱物の量が多いことがわかっていますし、磁性鉱物がたくさん検出される場所には、鉛など有害な重金属も多いという相関関係があることも知られています。磁性鉱物の分布を調べることで、人間の活動が環境にどう影響しているかがわかるのです。
簡便な調査で大量のデータを取得
環境中の磁性鉱物を調べる方法として、植物の葉に付着している磁性鉱物を調べるという方法が開発されました。サクラなどはどの都市にもあるので同じ条件で調査をすることができ、また葉を取るだけなので、サンプル収集にお金も手間もかかりません。さらに、サンプルを溶剤に溶かすなどの前処理が不要で、容器に入れて磁気計測器にかけるだけで、磁性鉱物の種類、粒子の大きさ、量が1~2分でわかるという簡便さです。
この手法なら広い範囲の調査も容易です。工業活動や交通量の影響がどのように広がっているか、磁性鉱物が人間の健康にどのように影響するかなどの調査の基礎データとして利用できると期待が高まっています。
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先生情報 / 大学情報

富山大学都市デザイン学部 地球システム科学科 准教授川﨑 一雄 先生
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環境磁気学、古地磁気学、岩石磁気学先生が目指すSDGs
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