長寿をかなえる食生活研究に貢献する、小さな線虫
花形モデル生物の線虫「C.エレガンス」
「線虫」といっても昆虫ではありません。その正体は土の中で暮らす細長い動物です。線虫「C.エレガンス」の姿形はヒトと全く違いますが、ヒトと同じように口からモノを食べ、腸で消化吸収し、肛門から排泄する機能をもっています。また、ヒトの脳にあたる神経環という器官があり、学習行動をします。これらのことから、線虫はさまざまな生体メカニズムを研究するためのモデル生物として活用されてきました。また線虫は全長1mmほどの無色透明の体をしているため、体内の変化がよくわかり培養も容易なことから、多細胞モデル生物の花形として重用されています。
線虫で食品成分と老化の関係を探る
1998年には、線虫C.エレガンスを用いて多細胞生物としては初めてすべてのゲノム解読が完了しており、遺伝子解析をはじめ高次な生命現象の研究に使われています。また線虫の寿命は3週間と短いため、食品成分が老化に及ぼす影響についても短期間で科学的に検証できるのです。
その一環として、古くから体に良いとされてきたヨーグルトなどに含まれ、プロバイオティクス(宿主に良い作用をもたらす生きた微生物)の代表格である乳酸菌が加齢時の健康にどのような影響を与えるのか、線虫を用いた実証的研究が進んでいます。
乳酸菌やビフィズス菌、食品因子の作用
研究の結果、線虫が通常餌とする大腸菌を与えたグループに比べ、数種の乳酸菌を与えたグループは寿命が延びました。またビフィズス菌を線虫に投与すると、老化にともなう運動機能低下の抑制がみられ、寿命が延びることもわかりました。線虫に遺伝子操作を施した実験により、これらプロバイオティクスの抗老化メカニズムが明らかになりつつあります。
また、ゴマに含まれるセサミンは、線虫の生体内をあたかも食餌制限のような状態にして長寿効果を発揮している可能性があるとわかりました。ヒトの健康や長寿をかなえる食品科学に、小さな線虫が大きく役立つ日も遠くはないでしょう。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 生活科学部 食栄養学科 教授 中台 枝里子 先生
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