染色体の構造変化によるダイナミックな突然変異を解明する
異次元の突然変異を誘発する
突然変異とは、遺伝子の本体であるDNAが損傷し、その修復過程でエラーが起こることで生じます。これまで、どんな突然変異がどのような遺伝子を破壊したのかを研究することで、どの遺伝子がどんな情報を持っているのかが解明されてきました。DNAの損傷は、ガンマ線などの放射線を照射することによって人為的に引き起こすことができます。しかし、多くの方法では、膨大なDNAの中の数個の塩基に影響を与える突然変異がほとんどです。ところが、エネルギーの高い「重イオンビーム」を照射すると、DNAの個々の塩基だけではなく、DNAが格納されている染色体そのものの構造変化を高頻度で誘発できることがわかりました。
植物に重イオンビームを照射すると
例えば、モデル植物としてよく使用されるシロイヌナズナに重イオンビームを照射すると、染色体の一部が別の染色体に置き換わるという大規模な構造変化が起こることが確認されています。この発見は、これまでの遺伝学が、主にDNAの改変による遺伝子の変化を対象としていたのに対し、DNAを格納している染色体そのものの変化を対象とした研究へとフィールドを広げることにつながったと言えます。この研究はまだ緒についたばかりですが、すでにさまざまな可能性が指摘されています。
染色体の位置情報の解明も!?
その1つが、染色体の位置情報の研究です。生物の細胞には細胞核があり、染色体はその中にあります。染色体が細胞核の中でどの位置にあるかはあらかじめ決まっており、位置によって遺伝子の発現に強弱があることがわかっています。重イオンビームによって、染色体の位置が変化したとき、どのような変化が起こるのかを調べることで、染色体の位置がどんな役割を持っているのかを解明できるかもしれません。このように、染色体の構造変化を対象とした研究は、遺伝子学研究に新たな進展をもたらすことが期待されています。
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福井県立大学 生物資源学部 生物資源学科 教授 風間 裕介 先生
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